使える人は、上手い人。

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。あまりにも儲からないので離農を考えていたが、なぜか今は農園の再活にフルスロットルで取り組んでいる。

とはいえ、やれることはやりきっていた。故の離農という選択でもあった。それでも探せばやっていないこともあるだろう。いや、探さなくても諦めていたことがあった。それはチームで戦うこと。僕はそれを試しもせずに諦めていた。

だが、そこではひとつの誤解もあった。チームで戦うということは、役割分担をして大きな仕事を可能にすること。それも間違いではないが、それだけではなかった。極端な話、理解して背中を押してくれる人がいればいい。それが僕の今の状況でもある。つまり、何度も失敗したフルスロットルだが、今回のそれは新しい試みというわけだ。

けれども、今の農業界は厳しい。課題は山積みだが、崩し方も分からない。考えられる原因はいくつもあるが、深掘りしていくと『仕方ない』に辿り着いてしまう。例外無くだ。誰かの涙を止めるには、誰かの涙が必要になる。完全な悪人でもいれば、その者に押し付ければいいが、現実にはいない。そして僕も人だ。賢人ではない。個人的には泣かしたい人もいる。それでも、泣いてもらう人を選ぶ行為はしんどいのである。

農作物の価格も課題のひとつであろう。生産者と消費者では『適正価格』の解釈も異なる。どちらが正しいという話ではない。仮にどちらかへ極振りしてしまえば、今ある何かが崩壊してしまうであろう。やはり、正攻法な価格を上げる努力は必要だ。ソーシャルグッドに働きかける方法もあるが、消費者の分かりやすいベネフィットに貢献する姿勢も必要だと思う。

乾燥きのこは不人気だ。おそらく、めんどくさいのであろう。僕も日常的には使わない。イベントで出しても売れ行きは鈍い。使う人は限られている。生産量も少ない。生産量も生きのこに対して1/30。そもそもの需要は少ないのである。

それを売っていく。市場価格の数倍の値段でだ。これが今の僕に課せられた案件。クリアしても金持ちにはなれない。取り組んでいるもっと大きな課題が解決されるわけでもない。補助的な支えになるだけだ。それにしてはハードルが高すぎる。けれども、これくらいのことをクリアできなければ、この先はないであろう。

乾燥きのこの長所を考えれば、それは美味いことだ。食材としては不人気だが、それは調理する者の視点からだ。食べる者の視点からは、人気度は分からないが、認知度は高いように思える。そう、調理する者は少ないが、認知度は高い。これが一番の長所のような気もした。

そう考えれば、乾燥きのこを必要としてくれる人物像も想像できる。自炊はしないが友人や知人に料理を振舞うことが好きな、料理スキル中級以上の20〜60代の男性。エンタメ的に料理で誰かをもてなしたい者を、乾燥きのこの提供を通して、手伝いが出来るかもしれない。きっと、その者にもてなされた人も喜んでくれると思う。

売り方の方向性は決まった。同時にハードルの高い課題も数多く出現した。これをひとつづつ丁寧に崩していく必要がある。けれども時間はあまりない。だが大丈夫であろう。どれも一度は取り組んできたものだ。経験はある。

それにしてもありがたいことだ。数か月前は離農を決めていたはずなのに。おかげで毎日が楽しい。環境を変えることの大切さは知っているつもりだったが、こんなにも影響を受けるとは思ってもいなかった。きっかけは、なんとなく。たとえ今のチャレンジが失敗に終わっても、その選択をした僕には感謝しかないのである。

いいなと思ったら応援しよう!