また遭難した

十勝の田舎町で暮らしている。僕は地域おこし協力隊だ。任務は自身の就農研修と、所属する生産組合の活性化。季節は真冬。それでも仕事はある。除雪だ。農家さんの栽培ハウスの周り、そこまでの通路。ダンプで行う除雪にも慣れた。生産組合の選別所も除雪する。1日の大半を除雪に充てる日もあった。

十勝は雪が少ない。だがそれは札幌がある『道央』と比べてのこと。東京と比べれば多いだろうし、東北の仙台と比べても多い。十勝は太平洋側の気候だ。冬型の気圧配置が強まり、日本海側が大雪のときは晴れている。だが気温は低い。最高気温もマイナス。故にまったく雪が降らないことはない。シーズンで3~4回ほどは大雪になる。膝まで積もることも珍しくない。そんな日は仕事が除雪になるというわけだ。

僕は以前、札幌近郊に住んでいたことがある。そのため除雪は経験済みだ。ダンプとラッセルの使い方はそこでマスターした。たまに除雪機を持っている人もいた。憧れの存在である。

だがどうだろう、十勝では除雪機の保有率が高い。持っているからと言って、憧れられる存在にはなれない。代わりに、重機を持っている人がいる。十勝でのあこがれの対象はそれであった。

僕の下駄車は軽トラだ。パートタイム4駆なのでデフは固い。乾いたアスファルトではハンドルが切れないくらいだ。おまけにデフロック機構も付いている。なんならギアはスーパーローにも入れられる。なにより車体が軽い。車高もある。タイヤも細い。雪道の走破性は普通車よりも高いと思われる。

そう思って運転していたらスタックした。やはり積もった雪の上に乗ってしまうと、亀のように何もできないのである。すこし過信していた。とはいえ、分かっていてもスタックしてしまう。「たぶん行けるだろう」。この想いに惑わされる。正常性バイアスというやつだ。故に何度も同じようなスタックを繰り返してしまった。

おもしろいもので、スタックからの脱出に慣れてしまうと「スタックしてもいいか」という思いも生まれてくる。荷台にはシャベルを常備するようになった。怖いものは何もないのである。

だがその日は違った。警報級の大雪に町は襲われていた。だが外は静かだ。危機感も薄らいでいたと思う。僕は広大な畑が広がる場所でスタックしてしまったのである。

状況は絶望的であった。道路からは外れていないが、大きな吹き溜まりに突っ込んでしまったのである。シャベルで軽トラを掘り起こすが時間は掛かる。その間にも雪は降り積もる。脱出しても、前後は通行不可に。町内で遭難してしまった。どうしたもんか。周りには何もないから不安なのである。

救ってくれたのは町の除雪車だった。吹雪の中で立ち往生している僕を見つけてくれたのである。僕は言われた通りに除雪車のあとをついていった。無事に道道へ出れたのである。

やはり雪は怖い。なめては駄目だ。えらいことになる。除雪車が見つけてくれたのは偶然だと思う。もしもを考えると怖くなった。もうしこし慎重にいこう。大雪の日は無理をしない。そう心に決めたのであった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?