写真展をひらいた

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。ひとりでまわしているので収穫量は少ない。つまり儲けも少ない。収穫物のほとんどは生産組合に卸している。だが、安く買いたたかれることは少ない。いつも品薄状態だからだ。値上げをしてもらいたいところだが、それは難しいらしい。けれども、僕が個人で販売することは止められていない。どちらかといえば応援もしてくれている。ありがたいことだ。

つい先日、新聞デビューも果たした。町の中での知名度は上がったと思う。この流れは大切にしたい。春には直売所をオープンさせるつもりだ。だが、それは先のこと。間に冬が入る。せっかく上がった認知度も下がってしまう。あいだに何かを行いたいと思っている。

これには運よく写真展の開催の話が決まっていた。町の公民館で行う予定だ。これもプレスリリースを出して取材をしてもらうことにした。話題で認知を繋ぐのである。

とはいえ写真展は開催したことが無い。加えてギャラリーで行うわけでもない。公民館のロビーが開催場所だ。どのような展示がいいのか。考えた結果、僕はL判写真を数多く展示することに決めた。

移住してからの写真をHPで公開しているが、その数は3,000を超えていた。きのこの写真も毎日撮っている。そこから1,200枚を選抜して、公開することにした。

丁度、この町は開拓から120周年を迎えていた。その数にあやかっての1,200枚である。半分以上は”きのこ”の写真にした。おそらく写真に興味のない人も見に来るだろう。いや、そんな人が大半だと思う。普通に展示しても面白くはならない。僕が創りたかった空気感は、友人宅でアルバムを見るときのそれだ。多人数で写真を見ながらの井戸端会議はおもしろい。それを写真展で再現しようとしたのである。

写真展の開催が近づいてきた。1,200枚の写真はプリント済み。あとは大きな移動式のパネルに画鋲で留めていくだけだ。だが、予想以上に時間は掛かった。役場の職員さんにも手伝ってもらったが、かなりの長丁場となった。それでも前日には準備は完了したのである。

僕は恥ずかしくて会場には行けなかった。だが、聞けば好評だったらしい。そんなことも耳に入ったので、こっそりと覗きに行った。そこには写真の前で開かれる井戸端会議があった。僕の創りたかったものは、ちゃんと生まれていたのである。

会期の前半には新聞社の取材も受けた。慣れたものだが、あいかわらず撮影だけは上手く受けられなかった。やはり笑顔は難しいのである。終わってみれば好評。指標は用意していなかったが、肌感覚で成功と言ってもよい空気感を感じていた。

僕の町でのイメージは『写真好きの”きのこ”農家』となった。なんだか恥ずかしいが、心地よくもある。写真展をしてよかった。正直、めんどくさいと思ったこともあったが、トータルでは楽しかったと思えたのである。

この勢いで春には直売所をOPENさせる。すでに建物はつくった。頂き物のビニールハウスである。栽培ハウスの横に建てた。準備は万全なのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?