アスパラの肉巻き

それは少し前のこと。公園で写真を撮った。すこし大き目の公園は自宅から離れている。駐車場はあるが有料だ。故に自転車で行った。かばんには67中判フィルム機。レンズは105mm F2.4。フルサイズ換算で50mmの標準レンズだ。あまり明るくはないが、開放でのボケ量はフルサイズのF1.2と同等。シャープさは無いが柔らかい写りが特徴。僕はこのレンズが好きだった。

フィルムは、ISO100のモノクローム。狙うは階段。イメージ通りの写真が撮れた。他にもいろいろと撮ったが、この日のベストショットはそれ。『僕の思う最高の1枚』にも近づけたかもしれない。そんな写真はお気に入りの1枚にもなった。

公園は都市部にある大規模なものだ。それ以外は特段の変わりはない。森があり、池があり、遊具があって、展望台がある。そこで写真を撮った。イメージ通りの画が撮れた。それが嬉しかった。

遠くへ行かなくとも写真は撮れる。ここは都会だ。遠くへ行く交通の便は悪い。脱出に時間がかかるからだ。故に行動範囲は狭くなる。そんなとき、近場の公園で撮れれば安心だ。被写体の枯渇に悩まされることも無いからだ。探求は続けられる。嬉しかったとはそういう意味だ。

案の定、行きたい場所は無くなってきた。厳密に言うと、行くことが可能な場所が無くなってきた。ただ、公園のそれでも満足はできなくなっていた。町の写真が増える。それはそれでおもしろい。けれども満たされない僕もいる。急速に『異動』したい想いが込み上げてきた。

医療系の研究施設で働いている。僕は短期転勤族だ。今の事業所は11ヶ所目。仕事は社員のマネージメント。評判も上々だ。会社の戦略的にも重要なポジションに就いている。おそらく誰もが僕の異動を期待していない。むしろ、ここで人の育成に励んでほしいのだろう。だが駄目もとで異動願を出してみた。

タイミングが良かった。同じエリアだが、新規の立上げ案件に抜擢されたのである。異動先は北に40km。近いこともあり、あまり魅力的な異動とは思えなかったが、藁にもすがる思いで話に乗った。

引き止めの話が多かった。素直に嬉しい。送別会も壮大に行ってもらえた。アスパラの肉巻きが美味しかった。後日、家でも作ってみた。焼く前だがいい写真となった。お気に入りの1枚である。

また写真のために異動をしてしまった。このことは隠していないが、皆は冗談だと思ったみたいだ。きっと僕のことを誤解している。僕の仕事は中途半端だ。そのかわり写真は本気で取り組んでいる。けれどもプロは目指していない。単に『僕の思う最高の1枚』を目指しているだけだ。

次の異動先の『その次』を考えると不安になる。だから今は次を全力で踏破しよう。まだまだ被写体は溢れているはずだ。僕の写真は止まらないのである。

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