十勝の冬とウサギの足跡

十勝の冬の朝は遅い。日の出時刻が7時台のときもある。おまけに寒い。マイナス二桁は日常だ。鼻から息を吸い込むと、奥の方で凍る感覚もある。吐いた白い息は、しばらくその場を漂ったりもする。

冬になるといつも思うことがある。『かんじきが欲しい』。十勝は雪が少ないと言われているが、基本的には積もる。栽培ハウスの横にある森は榾場として利用しているが、冬は除雪もしないので腰の辺りまで積もることも珍しくない。それはもう歩けない。足の短い僕なら尚更だ。それでも森に入りたい理由は、そこへと動物の足跡が続いているからである。

雪原の足跡は美しい。生物の営痕というよりも、理の創痕に見える。そこを通る動物は多様だ。猫やカラスがいるのは都会と同じ。割と多いのはウサギだ。特徴的な足跡なのですぐに分かる。天敵である狐もいるようだ。『止め足』と呼ばれるトラップもたまに見かける。

『イイズナ』も見かけた。オコジョと思ってたが、どうやら違うらしい。体が小さいのだ。似ているエゾリスは真冬でも元気。冬眠はしないそう。この森にも多く住み着いている。

大きい動物にも遭遇したことがある。エゾシカだ。雪の積もった榾場を疾走していた。足跡は美しくない。人が暴れながら通ったときのようだ。だがそれも見ていれば美しくも見えてくる。それを収められる写真は本当にありがたい。

これらの足跡はすべて栽培ハウスの周りに残されたものだ。森の奥へは見に行けない。故に『かんじき』が欲しいのだ。だが購入はためらっている。栽培や販売に活かせられないからだ。資金は少ない。そこまではまわらないのである。

いろいろと取り組んではいるものの、あまりパッとはしない。それは個人販売に限らず、所属する生産組合にも言えてしまう。優先度は低いが、生産組合の活動にも取り組んでいる。お金の管理のためにエクセルでマクロを組んだが、これが一番に感謝されている。他にも定期的に提案は続けていた。

生産組合のHPも作った。URLは独自ドメインである。もちろんメールもそのドメインだ。役場のサイトにもリンクをしてもらった。販路拡大の提案も行った。徹底的な低コストを実現した案だった。けれども上手くはいかなかったのである。

やはり農業はむつかしい。外を見れば、経営経験がある人も苦戦してる。顔の広い人もだ。営業が上手い人も然り。理由はわかる。栽培が上手くいっていないのだ。ダークサイドに落ちた人もいる。僕はその中でも順調な方だ。比較的、栽培が上手くいっている。

だからこそ、販売する力がほしい。だが、向いていないのだと思う。とはいえ諦めてはいない。イベント出店、web販売、直売所、6次産業化、クラウドファンディング。これらはすべてやった。だが、まだやれることはきっとある。そしていつの日か『かんじき』を買う。雪原に残ったウサギの足跡を追いかけたいのである。

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