いたずら心が止まらない
お掃除系の会社で働いている。役職は平社員。若いがゆえに溢れるマンパワーのおかげで、仕事場ではエースの座に君臨している。
だがその実態は無口なお掃除ロボットだ。文句や愚痴を漏らさず、疲れ知らずにひたすら働くのが僕という男。
Sエリアに続いて、次に任された仕事場は、ここCエリア。比較的体力勝負な場所。チームメイトはおばちゃん2人。もっとも僕が活躍できる場所だった。
いたずら心が止まらない。それが最近の悩みとなっている。たとえばチームメイトのおばちゃん達を助ける口実で、片っ端から仕事を奪ってみた。ひどいときは午後からの仕事が無くなってしまうくらいに。
それもいたずらなのである。仕事を早く終わらせたらどうなるのか。おばちゃん達のリアクションが気になるのだ。
通勤用に車も買った。たまたま気に入った中古車はマニュアル仕様だったが、ここでもいたずら的に即決してしまった。
僕はマニュアル仕様の車を乗りこなせるのか否か。気になりだしたら止まらない。いたずらを仕掛ける相手が自分のときだってあるわけだ。
気付いてはいる。それはいたずらではなく興味本位だと。最初は本当にいたずらだった。相手の驚く姿を見てみたい。それ一心だった。けれども途中からは相手の驚く姿に固執することなく、知らない世界を覗くような仕掛けへと変わっていった。
疎遠となっていた学生時代の友人と、再び遊ぶようになった。
休日や平日の深夜に3〜5人で集まることが多い。お互いが社会人になって数年、すこしの余裕も生まれたからだと思う。ここでの僕ははっちゃけている。パリピではないが無口でもない。
学生時代の友人と言っても、小学生の頃からの付き合いだから幼馴染みたいなものだ。内弁慶よろしく話しながら相手を深く詮索することもないというわけだ。
草野球チームを立ち上げる事となった。
はじまりは何気ない一言。「どうせならチームでも作ってみようか」。キャッチボール中の出来事だった。僕のその言葉は独り歩きをはじめ、またたく間に同級生へと広がり、あれよあれよと言う間にチームの体は完成した。
言いだしっぺということでキャプテンという名の雑用係になってしまった。業務は多岐に渡る。練習のスケジュール調整とメンバーへの連絡および質問受付。チーム名およびユニホームのプロデュース。グランドの確保。練習試合のマッチング。私設リーグとの打ち合わせ。etc…
どれもが"いたずら"もとい興味本位だったと思う。めんどくさいvs興味本位。けれども、ひとつの上手くいったことが次の自信につながり、めんどくさいが勝つことはなかったのである。
副産物的に生まれてしまった『会社の自分』と『プライベートの自分』のギャップ。おどおどはしなくなったものの、あいかわらず仕事場での僕は無口だった。
「たまには夜のドライブでもしてみたら?」おばちゃんのその言葉に対する僕の「そのうち」には後ろめたさも感じる。嘘をつきたいわけでも、隠したいわけでもない。恥ずかしいのだ。
でもさらけ出したい気持ちもある。知られたらどうなってしまうのか。そこに生まれる迷いと葛藤。一体なにと戦っているのか。僕のいたずら心は止まらないのである。
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