トラックを暴走させた

十勝の田舎町で暮らしている。僕は地域おこし協力隊だ。任務は自身の就農研修と、所属する生産組合の活性化。先日から現場に入っている。まずは仕事を覚えないといけない。基本的には農家さんのヘルパーだ。言われた通りに動けばいい。精神的には楽なのである。

任された作業は植菌。原木にドリルで穴を開け、種駒を植えていく。かなりの単純作業だ。ひたすら穴を開けては植えていく。作業中は会話もない。だけど楽しかった。青空も見える。外での作業が嬉しかったわけだ。

次の日も同じ作業であった。違うといえば木を切る作業が追加されたこと。180cmの木を90cmに切り分ける。役場からチェーンソーが支給されていたが使わなかった。電動丸ノコが道具。僕は機械の一部となり作業を進めていった。

昼食は持参した弁当である。けれども農家さんの家で食べていると、いらいろと奥さんに追加してもらえる。先日はカレーをもらった。美味しかった。「大根は焼いてトッピングするとカレーに合いますね」。僕はそう伝えた。おかげで料理の話が弾む。いろいろと教わることができたのである。

次の日も、次の日も、同じ作業は続いた。未だに作業のゴールは見えてこない。だが、ある日、別の仕事場に呼ばれた。どうやらトラックで大量の木を運ぶらしい。積み込みは手作業だ。そのためのマンパワー要員として呼ばれたのだった。

5人で木を積み込んでいく。指示はないので見よう見まねだ。一度に4本くらいを抱えて運ぶ。手に2本と、脇に2本。ひたすら運ぶ。人海戦術。時間にして10分ほど。あっという間だった。積み込みが終わりトラックに乗る。そして出発した。

この日の作業は木の積み込みなのだが、目的は知らされていない。いや、知らされてはいた。「今日は木を運ぶよ」。僕が尋ねると、最初にそう教えられたのである。それ以上は教えられていない。僕の質問の意味が伝わらなかったのだろう。微妙なところで意思疎通ができない。これからの課題になりそうだった。

トラックは目的地に着いた。次は木の積み下ろし作業である。僕はまた見よう見まねで作業にあたった。今度は現地の人も作業に加わる。人が多いのでぶつかりそうだ。僕は一歩引いて作業にあたっていた。

「誰かトラックをすこし移動させてくれー」。運転席に一番近かった僕が動かすことになった。マニュアル車だったが問題は無い。その運転歴は長いからだ。だが、大きなトラックを動かすのははじめてだ。おまけにディーゼル。すこし不安だったが、はったりをかました。

セルを回すと急にトラックは暴走。後ろで怒号が響いた。「おーい」。ギアが入っていたのである。ここは十勝だ。冬になれば雪が積もる。車のサイドブレーキは引かない人が多い。トラックもそうだった。代わりにギアを入れておく。そしてトラックの型式は古かった。クラッチを踏まなくてもセルは回るのである。

やらかしてしまった。けが人は出なかったが危なかったらしい。皆は笑ってくれたが、僕は内心笑えなかった。おそらく『不器用な奴』というキャラに設定されたと思う。それが恥ずかしかったが、逆に良かったのかもしれない。これからも僕はいろいろとやらかすからだ。

自分でも忘れていたが、僕は『やらかす』人だ。前職でもいろいろとやらかしている。それは転職しても変わらない。早いうちに『不器用な奴』と認識されてよかった。あまり期待されても困る。等身大の僕で居たいのだ。

翌日からは再び植菌作業に戻った。ひたすら穴を開けては植えていく。ここでもちょいちょいやらかしていた。失敗が多いのである。そんな僕を農家さんは暖かく見守ってくれた。ありがたいことである。そのうち恩は返したい。そんなことを思いながら作業を続けていった。

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