美瑛で畑に入るカメラマンの気持ち

医療系の研究施設で働いている。暮らしの拠点は札幌近郊。今月に引越してきたばかりだ。週末は写真を撮りに出かけている。先日は小樽へも足を延ばした。

レンガ造りの建物はよかった。すこしの劣化具合がいい。描かれた"漢字"も文字以上の情報が宿っていた気がする。外国人が漢字のことをcoolと持て囃す意味をすこしは理解できた気がした。

富良野へも出かけた。六郷エリアにである。ドラマ『北の国から』の内容は知らないが、普通に楽しめた。被写体としてもいい。ドラマのセット用とはいえ、石造りの建物の雰囲気は感じられる。内装もいい。期待していた空気感がそこにはあった。さすがである。

中でも廃バスを利用した家は圧巻だった。物語のストーリー性を排除しても一見の価値はあると思う。いろいろと脳がバグるのだ。バスの床が畳であったり、後部座席がリビングであったり、意味が分からないのである。もちろん撮った。これはお気に入りの1枚になると思う。

そろそろ美瑛へ行っても良いのだろうか。北海道で暮らし始めて、もうすぐ1ヶ月になる。だが写真の聖地とも言える美瑛には行っていなかった。ビビっているからだ。うまく撮れる自信もない。あれだけ作例の溢れている写真スポットも珍しいだろう。事前のシミュレーションは、いつまで経っても終わらないのである。

これはもう行くしかない。気楽に観光地を楽しんでこようと思う。そんな気持ちで出発した。

国道とは岩見沢でお別れ。裏道を使い桂沢湖へ。そのまま山道を進み富良野盆地へ入る。山道のわりに交通量は多かった。おそらく札幌から富良野へ行くオーソドックスなルートなのであろう。ドライブも楽しかった。

富良野から美瑛までも裏道を使った。国道は混みそうだからだ。かといって急いでいるわけではない。ゆっくり景色を楽しみながら行きたかったのだ。最後はジェット・コースターの道を抜けて国道に合流。そこまで来れば美瑛はもうすぐだ。

まずは道の駅で休憩した。その後は『あるうのぱいん』で食料調達。美味しいパンにありつけた。すっかり観光気分。そしてスポットへ。『ケンとメリーの木』に到着した。ここでやらかしていることに気づく。レンズのチョイスを失敗していた。

北海道は広い。そこを撮るには広角レンズが必要だろう。景色が被写体の美瑛なら尚更だ。僕のカメラは67中判フィルム機。この日のレンズは45mm F4.0。フルサイズ換算で24mmレンズと同等の視野角だ。これで見慣れている美瑛の写真を撮れるだろうと。この考え方が間違っていたのだ。

結論から言うと、美瑛は望遠レンズがよく似合う。いわゆる『美瑛の風景』も望遠レンズで切り取られたものが多い。よく見れば望遠レンズで撮った特徴も垣間見れる。けれども『北海道は広い』という固定観念からそこまで考えてはいなかった。

広角レンズでは"あの写真"は撮れない。ワンポイントとなる『木』は小さすぎてしまう。余計なものも映り込むだろう。解決策は被写体に寄ること。だがそれでは畑に入ることになる。カメラマンの畑侵入が問題になっているが、原因の1つはこれかもしれない。

『美瑛は望遠』。とはいえ広角レンズでも撮った。当たり前のようにボツ写真を量産。けれども楽しい。セブンスターの木で撮った写真はいいと思えた。木の下から畑を眺める構図だった。木の幹と枝、それと影の地面でフレームを構築した。おかげで奥の畑との遠近感が強調されていた。目指している『僕の思う最高の1枚』とはならないが、お気に入りにはなると思う。

大切なことなのでもう一度書いておく。『美瑛は望遠』。次は165mmを持ってい来たい。おそらく望遠力は足りないが、それで45mmよりかはマシだろう。この地には通うつもりだ。僕の写真は止まらないのである。


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