きのこ写真を送った

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。評判は上々。だが、あまり儲かってはいない。直売所やweb販売も行っているが、スケールが低い。黒字だが喜んではいられないのである。

とはいえ、就農前から取り組んでいるSNSとブログは活動を止めてしまった。やはり無理をしていた節がある。続けることが目的となり、その効果は薄れていった。マーケティングは難しい。現状維持ですら困難だ。農作業にも影響があった。更新や返信に頭を使った結果、疎かになった部分もある。本末転倒。再開するにしろ、抜本的な改革が必要と思われた。

そこへ行くと飲食店向けの取引は手つかずだった。小売りの方が価格を高めに設定できると思っていたからだ。たしかに単価は上げられた。けれども、手を打つべきポイントは、そこではなかった。一撃の高単価よりも、日々の卸し価格の底上げ。それが正解かどうかわからないが、とりあえず取り組んでみたのである。

商談に参加してみることにした。地元の銀行が主催している商談会にエントリーしたのである。ありがたいことに無料。しかも事前アンケートによるマッチング方式。僕は飲食店を希望し連絡を待った。

さすが銀行主催の商談会。僕に興味を持ってくれた企業は5社も現れた。どこも有名どころである。けれども飲食店ではなかった。本州の高級スーパーや通販会社が占めていた。

僕は知っている。そこは卸す量の単位が大きいことを。加えて納品日がきっちりしている。正直、期待に応えることは出来ない。決まれば農園の全力を注ぐことになるだろう。不具合が生まれても改善の余地は無くなるかもしれない。故に飲食店の希望だった。どうしたものか。僕は商談を降りることにしたのである。

飲食店に卸したい。その場合、一番の得策は地道な営業訪問だろう。だが、そんな時間と費用はない。あったとしても僕はド素人だ。うまくやれる自信はない。だからといってメールやファックス、電話での営業も効果は薄いであろう。僕は”はがき”によるDMを送ってみることにした。

相手に敬意を示したい。そのためには”無駄”を相手に見せる必要がある。”お得”を示しても敬意は伝わらないであろう。敬礼や土下座がそれだ。つまり、”無駄”を相手への敬意として示したいのである。

僕は上質のハガキを用意した。ILFORD社製「OMNIJET STUDIO」のマット用紙である。そこに顔料プリンターで”きのこ”の写真を印刷した。1枚6円くらいで出来るものを、49円も掛けたのである。もちろん宛名は自筆。このために万年筆も買った。文字の練習も必要だった。大学ノートの半分くらいを消費したのである。

まずは東京と札幌の飲食店に送った。客単価が高いところをめがけての送付である。反応はすぐにあった。メールやLINEに問い合わせが来たのである。率にして15%。サンプルの希望は5%くらいだった。日曜日の直売所に来てくれた人もいた。想像以上の効果で合格と言ってもいいだろう。

だが、注文が入り、定期的に卸した店もあったが、あまり長続きはしなかった。何がいけなかったのだろう。サンプル送付のお礼で1度だけ注文をくれた飲食店もあった。やはり球数が少ないのだろうか。200通くらいでは足りないのかもしれない。

このDM戦略は、今後も定期的に続けていくつもりだ。劇的には変わらなかったが、変化の兆しは確かに見えた。僕の戦略は止まらないのである。


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