歩けなくなった

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。規模は小さい。故にひとりでまわしている。いや、ひとりでまわしているから規模は小さいのだ。儲けも少ない。昨今の原木高騰も影響している。調達量も減った。仕込み量は最盛期の半分である。

作業量も減った。加えて今年は新しい試みもしていない。毎年、何かしらのミッションを自身に与えていたが、今年はなにもない。つまりは時間に余裕があるというわけだ。

だが、時間を有効に使える案は思い浮かばなかった。何個かは思いついたが、あまりにも夢を見すぎている。何度もシミュレーションをしてみたが、一向に上手くはいかない。気持ちがネガティブになっていることも要因だろう。だが、それを差し引いても、上手くいく画は描けなかったというわけだ。

僕はのんびりと農作業を行った。無理はしない。noteで『タモツの日記』を書きながらである。もちろん写真も毎日。ときおり飲食店さんから注文が入る。地元のお客さんからもだ。

写真も撮りに行った。半日かけて町のスポットをまわった。カメラは67中判フィルム機。レンズは広角45mm。詰めたフィルムはモノクローム。あまり考えずに撮った。一度は撮ったことのある構図で撮った。感じるものはすこし違った。少なからず僕の写真も進歩はしているようだった。

雨が降れば家でイベントの準備を行う。去年のイベント出店には目的があった。リーフレットの配布だ。だが今年は無い。それでも出店しようと思う。おもしろかったからだ。

だが去年の繰り返しでは詰まらない。僕のいたずら心は疼き出す。きのこの展示写真を辞めてみることにした。代わりに日本各地の写真を展示してみる。なに屋か分からなくなるが、それはそれでおもしろそう。すこし恥ずかしいが、準備は楽しいはず。そんな売上に繋がらないであろう準備を進めていったのでもある。

楽しかった。おそらく就農する前に想い描いていた理想の暮らしに一番近い。けれども長くは続かなかった。怪我をしてしまったのである。森での作業。その日は榾木のシートの除去を進めていた。耳元で鳴ったのはスズメ蜂の羽ばたき。ダッシュで逃げる。必要以上に逃げた。けれども耳元の音は消えない。再びダッシュ。けれども音はまだする。三度ダッシュすると左足ふくらはぎに衝撃が走った。

大きな石が当たったと思いきや歩けなくなってしまった。おそらく肉離れ、もしくは筋断裂。病院にて骨の異常は無いことを知り一安心。けれども、しばらくは松葉杖。全治三週間との診断結果だった。

最低限の生活には困らないが、農作業は完全休業が余儀なくされた。栽培ハウスへは行けない。イベント出店も直近のものはキャンセル。日中は布団の上。これはもう仕方ないのである。

結局、10日間の完全休業。完全復帰まではもうすこし時間が掛かった。夏の栽培計画はめちゃくちゃである。おそらくリカバリーも出来ない。どうしたものか。思ってた以上に綱渡りの運営であった。そこから落ちてしまったのである。

そろそろ来年のことも考えないと。補助金も切れる。このタイミングで歩けなくなったことは、いい機会だったかもしれない。選択肢は多いが、どれを選べばいいか、正直分からない。疲れも溜まっている。精神的にもだ。ここから勝負をかける気持ちにもなれない。だが、ここは一旦、保留にしておこうと思う。きのこの栽培は順調だからだ。


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