遭難した
医療系の研究施設で働いている。暮らしている場所は北海道だ。短期転勤を繰り返し、7ヶ所目で憧れの地にたどり着いたのである。雪国と呼べる場所で働くのは2ヶ所目だが、前回とはレベルが違う。雪の量が多いのだ。
もちろん車のタイヤはスタッドレス。とはいえ4WDではなくFF車だが困ったことは少ない。スタックをしたことはあるが、そこはアパートの敷地内だった。周りの人に助けてもらえたのである。
天気予報は見ない。基本的には毎日降るからだ。朝の雪かきも日課になっている。めんどくさいが、そこまで嫌でもない。
僕の仕事は”お掃除系”の一面もある。作業的には雪かきと似ているのだ。故に段取りもいいと思う。ラッセルで一方向に押し出しながらかき集め、ダンプで捨て場に輸送する。雪かき範囲が狭いこともあり10分も掛からないのである。
お隣さんとの関係も大切にしたい。雪かきの範囲は曖昧だが、そこは損得で動かないようにしている。ついでにお隣も除雪しておくくらいが丁度いい。ただ、過度にやりすぎると相手も気を遣うから、そこには注意が必要だ。
通勤も車だが、怖い思いをしたことは少ない。ルートの大半は国道ということもあり、除雪の頻度は高く、運転も快適だ。多少タイヤも滑ったりするときもあるが、カウンターを当てるのもだいぶ慣れた。地元民の運転レベルは高いが、僕もそこに追いつけつつあると思っている。
だがしかしだ、吹雪いてる日はさすがに億劫になる。一番怖いのはホワイトアウトだ。何度か経験したが、何も見えなくなるときがある。だからといってブレーキを踏んでは駄目だ。踏めば後ろの車に追突されるだろう。何も見えなくなる時間は5秒程度だった。その間は加減速することなく進むのが正解だったと思っている。
けれども、その日の吹雪は尋常ではなかった。
僕は事業所のリーダーだ。本社へ送る書類もある。手段はもっぱら郵送。仕事場近くの郵便局を利用する。車で5分ぐらいの距離だ。だが吹雪いていると、その距離でも恐ろしくなる。
ハザードを焚いてゆっくり進む。昼間だが視界は3mも無いだろう。すこしの距離でも大冒険である。着いても駐車場から郵便局内までの徒歩も辛かった。10秒ほどだが、雪だらけになる。
帰りはもっと酷くなっていた。完全にホワイトアウト。視界が回復することはない。除雪用の目印だけが頼り。道路の端を表わす矢印型の表示だ。それにそって運転していた。
気が付けば大きな国道まで来てしまった。曲がる予定の交差点を過ぎていたのだ。まったく気が付かなかった。引き返すも、今度は知らない場所へ来てしまった。ほぼ遭難である。次はかなり慎重に。何回か間違えたが、なんとか曲がることができ、仕事場に戻ることもできた。
おそるべし吹雪。ホワイトアウトをなめていた。慎重に対処しているつもりだったが、足りなかったのである。
不急不要の外出はしない。あまりにも酷いときは1時間ほどでも待ってみる。それくらいの気持ちを持つことが必要だったみたいだ。
それにしても冬は長い。そろそろドライブもしたくなってきた。青空広がる写真も撮りたいのである。春が待ち遠しい。北海道の冬の過ごし方はどうしたらいいのか。ひとまずこの問いに向き合おうと思う。