農家の産直イベントに『コンマケ』を持ち込んだ

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。栽培はまあまあ上手くいってるが、経営は上手くいってはいない。この夏もイベントに出店させてもらったが、次に繋がる策は考えていなかったから、ただただ"イベント出店"というタスクを消化しただけであった。

とはいえ楽しかった。準備からはじまる一連の出店作業は非日常的。当日は2:00に起床するから、前日から特別スケジュールで動き出すわけだ。大変だが、それも心地よい。変化の少ない毎日を送っている農家にとっては、イベント出店も刺激の強いアクティビティなのである。

もちろん、お客さんとのやりとりも楽しかった。もともと"喋らない奴"である僕でもだ。だが、問題もあった。僕は人の顔を覚えることが苦手だ。お客さんの顔も覚えられてはいない。かなりの機会損失になっていただろう。実は、他の出店者さんも買ってくれていた。全然分からなかったのである。

それでもお客さんがリピートしてくれていることは分かった。自己申告してくれるからだ。それと客単価も上がっていた。当初は1袋/人だったが、2年目の最終日には平均で2袋/人以上になっていた。3袋以上をまとめ買いする人も珍しくなく、本当にありがたあことである。

そう、僕の育てる"きのこ"の認知は広がっていた。『イベント内』に限ったことだが、売上に繋がるくらいの認知は確保出来ていたのである。たしかに、イベント内で”きのこ”を販売していたのは僕だけ。ライバルはいない。認知が集まることも納得できる。だが、振り返ってみれば上手く機能していた部分も多かったと思う。

それらは偶然であった。はじめから狙っていたものではない。たまたま枠にはまったもの。いわばラッキーパンチだ。だが再現性はあると思う。そもそも、当初の目的は『リーフレットの配布』。集客の部分をイベントに期待していた節もある。故にイベントを盛り上げることを優先したブースにした。それが功を奏したのであろう。

とにかく商品量が少ない。おそらく売り切れるだろう。故に『売切れ禁止』のイベントには参加できなかった。だからといって売切れを放置してはいけないだろう。禁止しているイベントもあるくらいだ、売り切れ状態のブースは、イベントに対してマイナスに働くと考えていいだろう。まわり回って自分にもマイナスが降りかかる。

僕は写真を展示することにした。だが闇雲に貼っても意味は無い。まずは5m向こうからでも目を引くように、高さのある什器を用意した。什器はブースのイメージを創りだす。僕は『森の農家』らしく木製のそれを自作した。

現地ではワンオペになる。設置と撤収のしやすさも考慮した。目標は10分以内の作業量。もちろん什器の量も考慮した。大き目の段ボール2個分以下に納める。それでいてデザインの隙はつくらない。そして予算は5万以内。難しかったがオールコンプリートしたのである。

テーブルに敷くリネンは2重にした。テーブルの丈下をツートンにすることで、のっぺり感を無くしたのである。什器は4枚。いろいろと応用が利くように分割したものにした。色は暗めの茶色。艶はない。写真が映えるようにだ。そして高さは150cmくらいに仕上げた。これならブース前を歩く通行人の視線も奪いやすいだろう。

3枚の什器には小さめの写真を貼り詰めた。これで通行人の目線を頂く。だが、ブースの訴求ポイントはテキストにした。おそらく、遠目から確認できる唯一の文字になるだろう。視線誘導が働くはずだ。農園の屋号をローマ字表記にして、大きなサイズの写真に記載し、ポスターのように魅せたのである。

ローマ字表記にした理由は読み難いからだ。案の定、足を止めて読む人が続出。口に出して読む人も多かった。量のある小さな写真で目を引き、ローマ字表記で足を止めさせる。効果は抜群であった。

おかげで”きのこ”を完売した後も、人は足を止めてくれる。たまに人だかりも出来るくらいにだ。おそらくイベントに対しても、うちの『完売』はマイナスに働いていないだろう。平均すると2時間以内の完売だが、ひとつの風物詩にもなったと思う。「今日もまた完売してる」。そんな声も多く頂いた。

それが認知の幅を広げてくれた節もある。悪く言うと『売切れ商法』。だが、全力で対応した結果の売切れだ。買えなかったお客さんには申し訳なく思っているが、決して狙ったものではないのである。

そんなイベントのブースだが、2年目は写真の大きさを変えた。ポストカードサイズに変更。およそ2倍の大きさにした。これは出店目標が無くなった2年目のお遊びによるものだ。被写体も”きのこ”ではなく風景に。それでも1年目と同様に機能していた。

だが、何屋か分からないのも事実。そう思い、最終日には”きのこ写真”に戻した。すると、肌感覚だが、過去最高のスピードで完売し、その後のブースの賑わいも過去1だった気がする。

そもそも僕のブースは異様だった。ものを売るためのブースがセオリーだろう。商品で埋め尽くし、買ってもらうためのポップをところせましに配置する。だが、僕のブースは通行人の目を引いて足を止めてもらうためにスペースの8割を使った。知らないうちに、コンテンツマーケティングの手法を、農家の産直イベントに持ち込んでいたのである。

おかげで潜在顧客ではないであろう人の足も多く止めていた。けれども、それがイベントの盛り上がりに微力ながらに影響して、まわり回って僕のところにもいい影響があったと思っている。

このままイベントに出展し続ければ、もっと大きな認知の獲得につながるだろう。だが、それも難しい。経営はあまり上手くいっていなからだ。わずかな値上げをしても仕方ないと思い、イベントでの価格も1年目のものを据え置きにした。だが「安すぎる」と言ってくれるお客さんも多かった。スーパーのそれよりも高いにもかかわらずである。

もしも来年も出店することができたなら、そのときは値上げさせてもらうつもりだが、「仕方ない」と思って値上げをしなかった行為こそが、僕の経営センスの無いところなのだろう。今更ながら、そんなことを思ったのである。

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