直売所を作った

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。就農してから、およそ1年が経った。収穫量は右肩上がりだが、まだまだ予定している量には届いていない。また、栽培に慣れていないということで、取り扱う品種も早生なものにしている。

僕の栽培ハウスにおける理想の湿度は低い。故に品質はいい。日持ちもする。日曜日は生産組合の出荷センターはお休みになるが、問題はない。日曜日に出荷したものは翌日の選別となる。さすがに鮮度は落ちるが、廃棄するような事態にはならないのである。

だが、自分で販売するなら日曜日であろう。それならば生産組合の出荷スケジュールにも、大した影響も無いはず。というわけでだ、僕は日曜日限定で直売所を運営することにした。

春から営業を開始したい。故に冬前から準備に取りかかっていた。元々、薪小屋を作るために調達しておいたハウス部材を流用。雪の積もる前に骨格は出来上がっていた。ビニールを掛けて、とりあえず雨と風はしのげる。そこに大き目のテーブルを置いた。直売所の形は出来上がったのである。

OPEN前に、プレオープン日を設けた。取材をしてもらうためだ。やはりプレスリリースを送ると、ふたつの新聞社が気にかけてくれたのである。取材はもう慣れた。準備も必要ない。記者さんとも顔なじみだ。だが相変わらず僕の顔の撮影だけは駄目だった。上手く笑えない。いろいろと策は講じているのだけれども。これはもう直らないのかもしれない。

けれども、新聞に載ったおかげでOPEN初日は盛況となった。開店10分で完売である。その後もお客さんはたくさん来てくれた。僕は品切れを伝え、ひたすら謝りとおした。

さすがに次の週からはお客さんの入りも落ち着いた。なかなか完売まで行かない。だがこんなものだろう。想定内だ。あとは地道に続けていく。そう、続けていくことを一番大切な戦略としていた。

だが問題が発生した。新型コロナウイルスの流行である。緊急事態宣言も出た。不要不急の外出は自粛するようにと。農家の直売所は営業してもいいのか。過去の事例はない。正直、わからないのである。僕は自粛することに決めた。

その間にやれることはあった。直売所の改装だ。上手くいかなかったら薪小屋にするつもりでいた。そのため殺風景すぎたのである。でも直売所は上手くやれそうだ。もうすこし手を加えてもいいと思う。それでも予算は10万くらい。自粛中に構想を練って、農作業の合間に改装を進めたのである。

ハウスの正面と裏面を『木の壁』にすることに決めた。内装も、壁に白いベニヤを打ち付けて、写真を飾れるようにする。テーブルも大きいものを用意し、商品のディスプレイを強化することにした。

緊急事態宣言が解除され、僕の直売所も再開した。改装工事は終わっていない。工事中の店舗での営業となった。これが逆に良かったみたいだ。毎週、すこしづつ変わっていく直売所。リピートしてくれるお客さんも増えてきた。儲けはあまりないが、未だに売上ゼロを記録したことはない。上々の結果だと思う。

結局、改装工事が終わったのはお盆を過ぎた頃だった。店舗の様子は徐々に変わっていったので、今更完成を宣言するのも意味はない。それでもお客さんは喜んでくれた。

大きな白い壁には、商品となる”きのこ”の写真を展示しておいた。商品テーブルの一番目立つところには、レシピ付きの料理写真を数枚展示しておいた。これ切っ掛けでお客さんとの会話ははずむ。僕が参加しなくてもお客さん同士でお喋りもはじまった。『滞在時間を延ばす』。これを目標に改装してきたが、上手くいって何よりだった。

やはりお客さんとのコミュニケーションがあると、農作業にも精が出る。僕は基本的には無口だ。本来、これは不得意である。故に、正直に言うと頑張った節もあった。だが、慣れてくると楽しい。たわいもない雑談でも、なにか満たされるものがあった。

直売所をやってよかった。いろいろと発見できたものもある。すこしだが、不得意を克服した面もあるのかもしれない。OPENから半年だが、初期の経費は回収した。おそらく改築経費も今年中にペイできるだろう。だがこれで満足していてはダメだ。まだまだ問題は山済み。僕の戦いは終わらないのである。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?