そしてタモツへ

十勝の田舎町で暮らしている。僕はきのこ農家だ。前職は医療系の研究施設で働く、実験動物技術者。間に地域おこし協力隊を挟んで就農した。都会疲れからの開放と、好きな写真と向き合う時間がほしかったのだ。

僕のつくる生産物の評判はよかった。安さではなく、大きさでもなく、美味しさで勝負した結果だ。物語で売ったわけでもない。販売が苦手な僕にとっては最善な方法だったと思う。

そう、僕はものを売ることが苦手だ。おそらく向いていないのだと思う。その代わりに栽培は向いていた。きのこ栽培の大変さはよく聞く。文句を垂らしながら従事している生産者も珍しくない。

そこへいくと僕は変わっていた。正直に言うと楽しいのである。ロボットのように働くことも得意だ。それで周りから奇異の目で見られることもあったが、それが気にならないくらいに好きだった。

とはいえ売らないと生きてはいけない。続けることもできないだろう。僕は一通りのことはやってみた。先日は"高級きのこ"の販売も試みた。結果は黒字だがスケールは小さい。失敗と思っている。認知が足りなかったのだ。

手応え的にはリアルイベントが効果的。だが、十勝の冬は長い。生産者イベントは短い夏だけだ。その打開策として、ハンドメイドのイベントに出店しようと思っている。すでにエントリー済だ。

"きのこ"のポストカードを販売する予定だ。だが、このままでは結果は期待できない。付加価値が少なすぎる。おそらく『農家の〇〇』ではダメだ。故にコンテストに応募してみた。東京のグループ展にも参加してみた。

結果は散々だった。グループ展には一度も足を運ばなかったのだが、コメントを多くもらい素直に嬉しかったが、その後に続くような話にはならなかった。

さて、どうするか。ハンドメイドのイベントには出店するつもりだ。その予定は変えない。散々な結果が待っているが、僕の知らない何かを得られるかもしれないからだ。

だからといって、次の一手を考えないことは愚策。けれども、いい方法は思い浮かばない。僕は昔を思い返すことにした。

僕がいい結果を出したときは、必ずその前にいい選択をしている。楽しそうな方を選んでいた。進学も、就職も、異動も、転職もだ。それが今はどうだ、正解を求めて選択している。ここら辺に不振の原因があるのではなかろうか。

僕は楽しそうなことをすることにした。とはいえ、今は楽しいことに包まれている。栽培の単純作業をしながら写真を撮っている。毎日だ。サイトに載せている写真も1万点を超えてしまった。さらに楽しくしていいのだろうか。

実は夏のイベントに出店してからブログを書き始めている。お客さんとの繋がりを維持するためだ。当初は12話で完結するつもりだったが、楽しくてその後も書き続けている。

写真のことについても書いた。ハンドメイドのイベントに出店して、ポストカードを販売するからだ。けれども書かない方がよかったと思っている。ブランディング的に違うからだ。そもそも書きたくても書けないことは多い。

それならばいっそうのこと、匿名で書きたいことを書いてみようか。マーケティングやブランディングを気にせずに。時間は取られるが、おそらく楽しい。僕はこの選択を取ることにした。

社会人になった20歳の頃のエピソードからはじめる。一話完結型のエッセイで現在までを綴るのだ。写真に対する考え方も載せられるだろう。毎日きのこを撮る理由も伝わるかもしれない。フィクションを謳えば細かい時系列も適当でいいだろう。サラリーマン時代の職場への配慮にもなる。

プラットフォームはnoteを使おう。さっそくアカウントを作成した。「不得意に負けるな!、格差社会ををぶっ飛ばせ!」。プロフィール欄には、今の僕へのエールを載せておいた。あとは名前を決めなければならない。これは偽名でいいか。

『タモツの日記』にしておこう。



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