就農した

十勝の田舎町で暮らしている。僕は地域おこし協力隊だ。任務は自身の就農研修と、所属する生産組合の活性化。任期は残り1年。この時間は僕の就農準備に使わせてもらえることになった。

春の植菌も自身のものである。ヘルパー業務ではない。農家さんの手伝いは、もうひとりの地域おこし協力隊員が行ってくれている。ありがたいことだ。運もあった。僕は自身の就農準備に専念できるのである。

植菌は5月連休のあとに終わった。なかなかのペースである。実は去年も自身の植菌をすこし行っていた。故に今年もスムーズに完了できたのである。

だが、落ち着いてはいられない。去年に植菌した榾木の天地返しが待っている。それと同時にビニールハウスの建設も行う必要があった。僕の資金は潤沢ではない。故に自分で建てることを選んだ。大丈夫。農家さんの支援で何度か建てている。経験済みということだ。親方さん達も手伝ってくれる。恐れるものは何もない。

建てるビニールハウスは2棟だ。1棟の部材は親方さんから譲ってもらえた。解体して移設をする。もう1棟の部材は新品で購入する。業者さんから建て方のアドバイスももらえた。イメージでは問題ないのである。

一番の難所は、土地の整地であろう。とはいえ、以前に誰かのハウスが建てられていた場所を使うので、土木工事は必要ない。だが、すこしスペースが足りないので、森を切り開く必要がある。伐採+伐根をするというわけだ。

結論から言うと、上手くいった。もちろん苦戦はしたが、親方さんにも手伝てもらい、新たな平地が出現したのである。あとはここにビニールハウスを建てればいいだけ。測量も綿密に行った。道具はないので、メジャーで三角測量を行った。多分大丈夫であろう。確認の測量は何度も行った。

ビニールハウスの建設は楽しい。大きなプラモデルと思える。道具もしっかりと準備した。建設は淡々と進む。悩むポイントも無いのである。しいて言えば高所作業が怖かった。だがそれも想定済み。怖がりながら安全に進めばいい。慎重かつ確実に作業を行うためには、恐怖も必要なのである。

3週間ほどで骨組みは完成した。あとはビニールの敷設。それは親方さん達に頼んだ。そして無事にビニールハウスは完成したのである。これで秋に行われる町のイベントには、生産者として参加出来そうだ。

森の榾木をハウス内に搬入する。毎日すこしづつ。発生操作をしながら。すると毎日の収穫もはじまる。イベントは盛況だった。その後も毎日の発生操作と収穫は続いた。あい間に森で間伐を行う。薪も調達した。

雪が積もりはじめた。森の間伐は終了。かわりに毎日の薪ストーブ管理というルーチンワークが加わった。大雪の日はハウスを守るために除雪も行う。加えて生産組合の仕事も請け負っていた。

あっという間の1年であった。もうすぐ地域おこし協力隊の任期も終わる。春からの肩書は『農家』だ。順風満帆ではない。問題は山積み。綱渡りのような経営になるだろう。恐れていても仕方ない。ひとつひとつをしっかりとこなしていく。僕の暮らしがまわりはじめた。不安な気持ちと、華やぐ気持ちが同居中。そんな心模様も心地よかった。


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