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不死人間のたくらみ【ショートショート】#12

告白すると、実は私、不死なんです。ナイフで心臓を刺されても、ダンプカーに撥ねられても、毒を飲んでも、首を絞められても、ガソリンをかけられて燃やされても、何をされても死なないんです。

細胞ひとつとして死なないんです。だから、指を切り落としてもその指はずっと生きているんです。私として……。
はじめ、その指はただの指として転がっているんですが、少しずつ細胞分裂をして“手”になっていくんです。はじめ、その指には意識はないのですが、段々と意識を持ち始めるのです。

いまでは、学校の図工の時間にカッターで切り落とした指や、検査で抜かれた血液や、蚊に刺されたときに吸われた血や、抜けた乳歯や、大小さまざまのたくさんの私がこの世には存在しています。私はたくさんいますが、意識はすべてと緊密に繋がっていて、常にやり取りをしています。

とても社会的に成功して大金持ちになった私もいれば、海の底に流されて漂っている私もいます。蚊の中で生きることに満足している血の私も、世界中の不死を研究するラボで研究員として、または研究材料として働いている私も、人工衛星に乗って宇宙の果てに飛ばされている私もいます。
意識は時空を超えてリアルタイムでコミュニケーションがとれるので、私の知識と経験はすごい勢いで蓄積されていきます。

一番注目されている私は、「小学一年生」という学習雑誌についている付録の「死なない細胞」としての“私”です。子供たちに大人気で、中には私を人間の形をした六歳まで育てている子もいます。と言うことはその私は小学一年生で、私を育ててくれている子は小学六年生になります。その子からは不死の「ふっちゃん」と親しみを込めてそう呼ばれています。

不死の私は、自分でも把握できないくらいに増えています。オリジナルの私というものはありません。すべて対等な私です。近い将来私は、地球で最も成功した生き物になるでしょう。そして宇宙をも掌握するのです。

私は私以外のすべての生物を駆逐する予定です。私の意識はすべて繋がっています。ワンネスなのです。私同士で争いごとはあり得ません。暴力も嫉妬も、恥も恐れもありません。そのために私は、ゆっくりとじんわりと、人間に恐れや不安や疑いを与えないように、慎重に駆逐しているのです。宇宙の平和のために。

【 実は私〇〇なんです。シリーズ#2 】

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