月曜日の腐った牛乳 その参 【短編小説】
3
僕は、できるだけ落ち着いた感じで、耳を澄まし、目玉だけを動かしてクラスの様子を窺う。でも、誰も腐った牛乳の話をしている人はいないし、牛乳パックも見当たらなかった。
そうしているうちに八時二五分になり、登志子先生が教室に入って来た。いつもちょうど25分に教室に入ってくる。
僕のお母さんが前、「登志子先生は、お母さんと同じ歳なのよ」と言っていたけれど、眉間のしわが深くお尻もでっぷりとしていて、もっと年寄りに見える。
登志子先生が一歩、教室に足を踏み入れた瞬間を見計らい、日直当番の学佳さんの声が響く。
「きりーつ! 先生、おはようございます!」
「先生、おはようございます!」
「はーい、みなさん、おはようございまーす」
「ちゃくせーき!」
日直の号令で、一斉にみんなが動き、同じ言葉を言う。この瞬間、みんなが安っぽいおもちゃみたいで好きだ。
登志子先生は、教卓の前で立ち止まり出席簿を開き、出欠を取り始めた。
「有吉さん! 井上くん! 植田くん! 江頭さん! ……山口くん! はい、えっと、村松健くんはちょっとお腹が痛くて、保健室で寝ています。では一時間目は社会でーす!」
登志子先生はそう言うと、出席簿を教卓の棚にしまい、僕たちは一斉に机の中から教科書やノート、筆箱を取り出す。
伸びをしながら先生は、自分の机にいき「どっこいしょ」と椅子に座った。そして、引き出しを開けた。
「ぎゃああー!! な、な、なにこれええ!」
登志子先生は、怪獣のような悲鳴をあげ、椅子ごと後ろにひっくり返った。
「だれ! 先生の机の中に牛乳をぶちまけたのは!」
教室に登志子先生の銅鑼の音がひびきわたる。