生きている人が、まだ死んでいないことの奇跡
「生きている人が、まだ生きていることの奇跡」
「生きている人が、まだ死んでないことの奇跡」
いま生きている人の全員が、120年後には死んでいる。地球上のすべての人間は、この短いスパンで総入れ替えがスムーズに、滞りなく行われる。
誰かがリーダーシップを発揮する必要もなければ、カリスマも暴君もいらない。
今までに親兄弟、友人知人、身の回りの人で死んでいった人は幾人もいる。病気や事故や自殺、寿命などで。誰がどの順番で死んでいくのかなんて、誰も知らされていない。次は自分かもしれない。
しかしまだ、オレは生きている。ピンとこない……。
49年と6ヶ月近くも死なずに生きている。
若き才能のある絵描きが、不慮の事故や自殺で死に、残された作品を遺族がみんなに見てもらいたいと個展などをする。そういうのを目にすると、才能ある人が死ぬ偶然と、オレが死んでいないことにくらくらとする。
背後で洗濯機が脱水を始めた音が聞こえる。オレは洗濯が終わった衣類を物干し竿にかけ、乾けばたたみ、収納ボックスにしまうだろう。そしていつかまた着るつもりでいる。
こんなふうに物思いに耽って死を思っても、これから洗濯物を当たり前に干す。
不思議とそんなものなのだ。