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雨の日の水鉄砲の使い方 後編 【ショートショート#44の2】
後編
「エッジにとどまれ!」
レジの順番がきて、現金で払おうと財布を出すがお金が入ってなかった。イラっとしている。ペイペイで払おうとスマホを探すが家に忘れてしまったようだ。焦りとともに世界につながれていない不安も感じる。仕方なくカードで払うと、急いでコンビニの外に出て前ゆく人を探す。心拍数が高い。前ゆく人は地下鉄へ降りる階段入り口にいた。安堵と共に追いつかねばという焦りが再び。
地下鉄に降りる階段途中で走り追いつくも、コンビニに傘を忘れたことに気づき思わず「ああああっ」と声をあげ立ち止まり天を仰いだ。僕の後ろの人が迷惑そうに僕の横スレスレを通り抜けようとするが肩がぶつかり我にかえるも前ゆく人を見失ってしまった。
僕は階段の途中で立ち止まったままペットボトルの水を水鉄砲に入れ始めた。人がぶつかるたびに水がこぼれ人にかかり軽く悪態をつかれた。
水鉄砲の水が満タンになると、誰彼かまわず目についた後頭部狙って撃ちまくった。撃たれ振り向く人の顔は滑稽だった。タイミング悪く振り返り顔面に水鉄砲を喰らい、鼻の穴に直撃しくしゃみをする人もいた。五秒くらいのうちに一〇人くらいの人を撃ち、身の危険を感じた僕は階段を駆け上がり逃げた。
外は土砂降りだった。雨に濡れながらさっきのコンビニに忘れた傘を取りに戻るも、僕の傘はもうなかった。だから適当に傘を取った。その傘を差すと派手な花柄だった。くるくると回すと雨が飛び散った。前から歩いてくる男に水たまりを蹴りたっぷりと小石や落ち葉混じりの水をかけた。相手はデカい男だった。僕は殴られ花柄の傘を奪われ折られ怒鳴られた。興奮した男の言葉は滑舌が悪く、何を言われたのか聞き取れなかった。そしてその男は過ぎ去った。
雨の中、血の味がする。ほほが痛い。脳みそが揺れてぐわんぐわんする。靴の中がグチュグチュして気持ち悪い。心臓は早鐘を打っている。足が宙に浮いているように力が入っていない。思考は何をやっているのだと自問し、心は満ち足りていた。雨が気持ちいい。水鉄砲の水はまだ入っている。
おしまい