奇病ショットガン【ショートショート#25】
ガンが発病した。場所は鼻である。ダブル バレル ショットガン種というガンで、銃口が二口ある珍しいものである。
二本の黒い鉄の筒が、ピノキオのように真っ直ぐ一〇センチほど、俺の顔面から突き出ている。
俺がくしゃみをすると、どちらか一方の「鼻の穴?」から鉛の弾丸が飛び散る、というのが主な症状である。
俺は、このガンの発病に気づく前に一度だけくしゃみをした。
「ズドン!」
左銃口(左鼻穴?)から鉛の球が飛び出し、手に持っていたティッシュと俺の左手の小指が吹き飛んだ。さいわい周りには誰もおらず、俺の部屋の壁に幾つかの直径数ミリの穴が空いただけで済んだ。
すぐに救急車を呼び、部屋の外で待っていた。到着した救急隊員は、俺の顔を見ると撃たれるのではないかと、近づくことを怖れた。
俺は自分の鼻の感覚から、右の鼻には弾が込められているが、左鼻には発砲後、まだ弾が装填されていないのが分かった。その旨を救急隊員に伝えた。
救急隊員は俺にこちらを向かないように言うと、小指の吹き飛んだ手の応急処置をし、これからどうするかを本部と無線で相談していた。
「残念ながら、実弾が右の鼻に装填されている状態で、あなたを救急車に乗せることはできません。ですが私たちにも救急隊員としての意地があります!」
と力強く背後から言うと、俺の顔の右後ろから手を伸ばし、ティッシュで作られたこよりを見せてくれた。
「今から、あなたの右の鼻の穴に、このこよりを使って、くしゃみをさせ発砲させます。そして、両方の鼻穴に弾がないことを確認できましたら、救急車で専門の病院まで搬送します!」
そう言うと、俺を空き地の前に立たせ背後から、こよりを右の穴に慎重に入れ、ツンツンとし始めた。手を出しすぎると救急隊員の指が吹き飛びかねない油断ならない状況で、緊張した救急隊員の鼻息が、俺の耳にかかる。
命懸けでやってくれていることに感謝の気持ちしかないが、一〇センチある筒の入り口でツンツンされても何にも感じない。たぶんもっと奥でないとくしゃみは出ないだろうと思った。しかしそれを伝えることは、なんとなくできなかった。
しばらくすると、緊張のため指先から出た汗で濡れたこよりは、折れ曲がり使い物にならなくなった。救急隊員は静かにあとずさった。肩で息をしているのを感じる。
救急隊員たちがまた作戦会議を始めた。ひとりの隊員が、近くのコンビニまで走り何かを買ってきたようだ。
「お待たせしました! 次はこれでやってみたいと思います!」
というと、さっきのこよりの時のように救急隊員は、後ろからコショウの瓶を見せてくれた。
たぶんコンビニで買ってきたのだろう。そのコショウのお金は、オレが払わないといけないのか気になった。
「いきますよ! がんばりましょう!」
とオレの頭の上から勢いよくコショウを振りかけてきた。
「ズドン!!」
右の穴から飛び出した弾丸は、乾いたむき出しの空き地に当たり小石を跳ね上げた。銃口からは硝煙が上がり、鼻水が垂れる。くしゃみはしばらく止まらず、「カシャ、カシャ」と空撃ちが続いた。
「やった! やりましたね! よくがんばりました!」
と救急隊員たちは喜び、俺の肩を叩き労う。
「シャコッ! シャコッ!」
と弾が、俺のダブル バレル ショットガンの鼻に込められる音がした。救急隊員の顔が青ざめ、素早く俺の背後に回った。
どうやら俺の身体は、肩を叩くと弾が装填される仕組みになっているようだ。
暑い夏の昼下がり、西部劇の映画さながら熱風が砂埃を巻き上げ、辺りはしんと静まりかえっていった。
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