かみさまのハテ【ショートショート#32】
むかし、むかし、その神は地球で、ゴキブリだったり、ダニやノミだったり、カメムシやムカデの姿で暮らしていた。
それらの蟲は人間たちに至極評判が悪く、見つかると殺されたり、追い払われていた。その神の名をハテと言う。
ハテはいつも人間にいじめられ、空に移り住んだ。空でハテは雲の姿になりのんびりと暮すことができた。
ある日、ハテは空で太陽と話しながら日向ぼっこをしていると、地上がどうも騒がしい。火を焚き煙をもくもくと上げ、動物の首を生きたまま切り落とし、大声でなにか叫んでいた。
ハテはそんな野蛮なことをやめさせたかったし、煙たくてしょうがなかった。困ったハテは雨雲をつくり大雨で火を消し、雷で人間たちをびっくりさせ、動物殺しをやめさせた。
人間たちは火を消されたのに、なぜか大喜びしていた。
相変わらず人間たちは野蛮でどうしようもないなあ、とハテは呆れた。
しばらくするとまた煙が上がっていた。今度はかなり派手にあちこちで煙が上がっている。
また可哀想な動物を殺そうとしているのかと覗きにいくと、今度は鉄の箱に乗った人間たちが、お互いを殺し合っていた。
地面を這う鉄の箱、海の上を泳ぐ鉄の箱、空を飛ぶ鉄の箱、全部が全部、お互いに何かをぶつけ合い殺し合っていた。
ハテは人間から逃げ出したくなった。
ハテは宇宙を見上げ、丸く光る月を見つけると、クレーターに引っ越すことにした。
ハテは月につくとさっそく、月の自転するスピードを調節して、月の片面だけを地球側に向くようにした。そして、地球の見えない側にある小柄なクレーターでアメーバーになった。
いま、ハテは、宇宙線で日光浴をしながら穏やかに過ごしているとさ、おしまい。