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岩手蕎麦紀行 〜極楽乃〜

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 訪れたのは、岩手県内において蕎麦激戦区とされる雫石町の『手打ちそば・極楽乃』。
 僕にとって蕎麦は昔から慣れ親しんだ食べ物の一つではあるものの、蕎麦の味なんてちゃんと味わったことなんかなかったし、「どれも同じじゃん!」とすら思っていた。それ故に、テレビ番組等で蕎麦の食リポをする際は困って困ってしょうがなかった。なぜなら「どれも同じじゃん!」などと思ってしまっているから。正直、「コシ」と「喉ごし」と「風味」の三つのワードを並べることでやり過ごしてきた。さらに言えば、セットの天ぷらの方が多く時間を割いて食リポしていたくらいだ。

 しかし、僕も今年で40歳となる。このままではいかんのである。蕎麦は大人の嗜みだ。蕎麦を語れる大人になりたい。

 そんな蕎麦童貞ともいうべき僕を蕎麦の何たるかを知る旅へと連れ立ってくれるU氏という友がいた。友と言っても、僕より一回り以上も年上であり、仕事上のボスであり、これまでどれだけご馳走になったか分からないほどご馳走になっている御仁である。しかし、僕はこの御仁を親しみを込めて友と呼ばせて頂きたい。何故なら、『蕎麦』とは『大人の嗜み』、つまり『大人の趣味、遊び』であるからだ。つまり『岩手蕎麦紀行』は大人の遊びであるのだ。遊び相手は『友』でなければならない。たとえ、蕎麦屋までの道のりを運転してもらって、さらに蕎麦をご馳走してもらっているとしても…。

 今回は『岩手蕎麦紀行』の初回ということで、前書きがだいぶ長くなってしまったが『手打ちそば・極楽乃』に訪れた話である。
 店員さんに話を伺ったわけでは無いので、正確な情報はない。『岩手蕎麦紀行』は仕事では無く、嗜みである。店員さんにあれこれ聞き出す行為は無粋である。一客人として蕎麦を楽しみたいのだ。

 眼前の岩手山の雄大さに畏敬の念を抱きながら店内へ。自宅を改装したかのようなアットホームな雰囲気。しかも、田舎の家の。まさに、蕎麦を食すシチュエーションとしては王道の演出である。なんだかんだ言って、ベタは強い。

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 注文したのは『もり蕎麦』と『うな丼』のセット。

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 蕎麦は二八。まずはつゆに付けずにひと啜り。ゆっくりと蕎麦を噛む。目を瞑り、程良いコシを感じながら、ぐっ、ぐっ、ぐっ…。来た。蕎麦の香り。優しく鼻を抜けていく。繊細だが、確かな存在感。

 蕎麦は陸上競技に似ている。まさにシンプル。だが、シンプル故に嘘がつけない。誤魔化しが効かない。そして、強き走りは美しい。芸術と言って良い。

 蕎麦の香りを消さぬように、ほんの少しだけつゆに付けてズズズと啜る。フワッとカツオの香りが蕎麦の香りに加わる。良い。

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 次に「うな丼」。ふっくらとしたその見た目通りの柔らかさ。まるで女性の乳房のよう。母性的であり、官能的。天ぷらと迷ったが、正解である。もちろん天ぷらも大いに気になるところだが、次回訪れた際もおそらくこのうな丼を注文することだろう。

 蕎麦湯で〆て完食。蕎麦童貞にとっては少々刺激が強かったが、大満足の初紀行となった。まだ1軒目であり、他との比較は難しいところだが、実はこの記事を書いている時点ですでに他も数軒訪れている。他と比較した結果から言えば、極楽乃はまさに優等生タイプ。それはつまり王道タイプと言っても良い。蕎麦激戦区における中心的存在。それが、僕から見た極楽乃である。

 次回の『岩手蕎麦紀行』も蕎麦激戦区・雫石町から。岩手の蕎麦はわんこ蕎麦だけではない。次回も、嗜ませて頂きます。

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