まちにブルワリーができるまで。
2018年5月3日、遠野醸造TAPROOMが遠野駅の近くに開業した。
「コミュニティブルワリーを作ろう」と掲げていた私たちは、お店ができるまでを共有し、市民の方や応援してくれる方にも、醸造所づくりに参加してもらった。物件が見つかったのは2017年の10月。そこからオープンまで約7ヶ月、短期間での醸造所立ち上げのチャレンジは本当に色々なことがあった。大変だったけど、あっという間に過ぎた。多くの人と大事な過ごした時間を、忘れないうちにまとめたいと思う。
2017年10月 物件候補が見つかる
2017年の4月から醸造所開設に向けて動いていたが、適した物件が中々見つからなかった。醸造免許の申請から逆算するとタイムリミットがすぐそばまで来ていた2017年の10月、メンバーの1人が街中を歩いている時に今まで無かった「賃貸」の看板がかかっている物件を見つけた。すぐに不動産会社に問い合わせて、建物の中を見せてもらった。
建物の広さ、天井の高さ、立地全てをとっても理想的な物件だった。そして元酒屋だったというストーリーにも惹かれた。「ここに醸造所をつくりたい」という私たちの急なお願いにオーナーさんは驚いていたが、何度か自分たちの計画や想いを伝える場を重ねる中で、あなたたちならと言っていただくことができた。協議がうまく進むように間に入って調整をしてくれた不動産会社(いずむ不動産)の担当者には本当にお世話になった。
2017年11月 キックオフパーティー開催
賃貸の契約が済んだ後、私たちは「キックオフパーティー」を開催した。まだ借りたばかりで何もない状態の物件に、お世話になった方を招待しようと考えたのだ。醸造所になる前の状態を見てもらい、これから始まる醸造所づくりの仲間になってほしい、という想いがあった。「50名も集まったらすごいよね」と準備していたのが、結果120名もの方がまだ何もない場所に足を運んでくれた。ここは人口2.8万人弱の遠野市。東京で同じ人数が来てくれるのとは状況が全然違う。多めに用意したビールは開始30分で無くなり、慌てて追加発注をすることになったが、ここまで期待してくれていることが嬉しかった。
この写真はキックオフパーティーの写真ではなく、2017年の春から始めていた「クラフトビアナイト」の一コマである。私たちはビールの多様性や、楽しさを伝えるために毎月このようなイベントを開催して徐々に自分たちの周りのビールコミュニティを広げていった。こういった地道な取り組みが徐々に繋がっていっていることをキックオフパーティーで感じていた。
2017年12月 DIY作業の開始
キックオフパーティーの余韻に浸る間もなく、醸造所工事が始まった。写真は一部の解体作業をDIYでしている風景。私たちに残された時間はあまり無く、そして予算も無かった。自分たちでできることは自分たちで、そして作業自体も地域の方に手伝ってもらいながら、工事を進めていった。
2017年12月 設計士&施工業者決定 打ち合わせスタート
設計士は知り合いの紹介でMasterdの増田さんにお願いすることに決定した。ここから完成まで何度も打ち合わせや調整が始まるのだが、増田さんには何度も遠野に来ていただき、細かく私たちの要望を聞いていただいた。施工業者の照井工務店さんとのタッグを組み、予算が無い私たちに最後まで諦めずベストな提案をしてくださり、本当に有り難かった。
2018年1月 クラウドファンディング スタート
醸造所開設のためには、資金調達も重要なポイントである。私たちは、自分たちで出した出資金に加え、地銀ベンチャーファンドから出資を受け、そして数社から融資を受けた。それらの出資と融資以外にも、クラウドファンディングに挑戦した。資金的な余裕が無かったこともあるが、このクラウドファンディングをきっかけに醸造所づくりに一緒に参加してくれる仲間を増やしたいという思いも強かった。クラウドファンディングが開始されてからの毎日は本当に楽しかった。応援の声をたくさんいただいたり、新たな仲間との出会いがたくさんあったからだ。クラウドファンディングの文章や構成は知り合いの中村さんに依頼した。ビール好きの彼が私たちの夢をしっかりまとめてくれた。
この写真は、仙台に出張してクラフトビアナイトを開催した時の写真。岩手わかすゼミの皆さんの協力のもと企画したところ、イベント公開からすぐに定員に達してしまい、1日に2回に分けてイベントを開催することになった。この時期は様々なイベントに出たり、講演で呼んで頂いたりして、メンバーがそれぞれ色々な場所で自分たちのビジョンを語って、賛同者を増やしていった。
約1ヶ月半のクラウドファンディングは、直接支援を頂いた方も合わせると約400人の方から約800万もの支援を集めることができた。実績もない私たちに対しての結果が出た時に、自分たちだけの夢ではないことを強く感じた。
2018年2月醸造設備が到着
醸造設備もなかなか届かずもどかしい日々を過ごしていたが、2月中旬にやっと中国から到着した。店舗の前にトラックが横付けされ、醸造設備と対面できた時には歓声が上がった。雪が降る寒い日に、この重いタンクをおろす作業を手伝いに何人かが応援に駆けつけてくれた。
醸造設備を一つずつ5、6人で丁寧に運んだ。醸造設備に関しては、この写真の左側に映っているさくらブルワリーのスティーブが仲介に入って輸入してくれた。彼には設備の使用方法など、色々と相談にのってもらった。
醸造設備が届いた後は組み立て。組み立て後の写真を見ながら、みんなで試行錯誤しながら組み立てていった。
こちらは冷蔵庫。少しでも工事費用を安くするために組み立ては自分たちでやったが、こちらも大変だった。丸一日かけて、何度もやり直しながら完成させた。
2018年3月 メニュー開発会議
私たちは醸造所だけでなく、併設する飲食店も開業するため、そこで提供するメニューの試作を何度も行った。創業メンバーは飲食店でバイトしたことはあるが、料理人ではない。この写真は市民の方を呼んで、試食会を行った時の写真。良いところや悪いところを書いて欲しいと渡したメモには、ほとんどの方がびっしりコメントを書いてくださった。参考になるコメントばかりで、それを見ながら提供メニューを決定していった。
2018年3月 発泡酒免許取得
ついにこの時が来た。ここまであまり書いていないが、醸造担当のメンバーは店舗が決まってからずっとこの免許取得のための申請書と向き合っていた。多くの資料を作成し、細かく税務署とやりとりしていた。短期間での申請だったため、3月に入ってからは2017年度で取得できるかできないか、1日1日が緊張の毎日だった。なかば諦めていた中で、取得できるという連絡が入った時にはメンバーで熱い握手を交わした。
2018年4月 醸造開始
免許交付後1週間もたたないうちに、私たちは醸造に着手した。お店のオープン日はすでに決まっており、その日に自分たちが作ったビールを間に合わせるためには時間的な余裕は無かった。
稼働する設備、それに向き合う醸造担当のメンバーを見て、ここが醸造所であることを改めて気付かされ、早くここで作ったビールを飲みたいと思った。
突然出てきたドヤ顏の彼女はインターンシップ生。京都の大学を休学し、遠野醸造の立ち上げに参加してくれている。ちょうど12月のキックオフパーティのタイミングで遠野に初めて来て、そこで私たちと立ち上げの期間を過ごすことを決めてくれた。彼女はオープン時には料理長と呼ばれるくらい、立ち上げには欠かせない大事なメンバーになってくれている。
2018年4月 スツールづくりワークショップ
設計士と、木材を提供してくださった小友木材の方の提案で、店舗で使うスツールをこれもまた地域の方と手作りをするワークショップを開催した。それぞれが作ったスツールの裏にはメッセージが書き込まれているのでお店に来た際にはひっくり返して見て欲しい。
2018年 4月工事が終盤へ
いよいよ工事も終盤になり、お店らしくなってきた。日々変わる店舗の様子に、近くを通る方が覗いてくれた。
終盤、私たちには最後の大きな仕事が残っていた。費用を予算内におさめるために、店舗の内装工事は自分たちでやることに決めていたから。養生して、ひたすら塗装をしていく。
オープン日が近づく中で時間が無く、作業は夜まで続き、ライトで照らしながら作業をしていた。店舗の塗装部分を見るとムラがあったり、デコボコしていたりしている。それは素人の私たちが塗っている部分である。味がある、という表現で褒めてくれる方もいるし、何より自分たちでやったという証になったので結果良かったと思っている。
2018年5月 いよいよオープンへ
全てがギリギリで進んでいた中だったが、やっと開業の準備が整った。オープン前に、地域の方や、クラウドファンディングで支援してくださった全国の方を招待してオープニングセレモニーを開催した。この場所を心待ちにしていた方々と乾杯するビールは美味しくて、感動的で、楽しかった。まだまだ始まったばかりだが、応援してくれている方々となら、挑戦を続けていける。
オープン後は自分たちの想定以上のお客さんに来ていただいている。都市部や周辺地域からも来ていただいているが、地域の方の利用が多い。知り合いに遭遇して乾杯している光景もよく見る。私は遠野に移り住んで2年がたったが、今まで出会わなかった若い世代の地域の方ともこの醸造所で知り合うことができたのが嬉しい。
飲食店としてまだまだ足りない部分も多く、日々振り返りながら少しでも良い時間を過ごしてもらえるように、メンバーで意見を出し合い、改善を続けている。
最後に、あかりが灯った店舗の外観写真。私はこの写真が大好きだ。しばらく眠っていた建物がまた動き出した感じが好き。「コミュニティブルワリーをつくりたい」という気持ちは変わっていない。この場所で色々な人が出会う。ビールをハブに新たなコミュニケーションがどんどん生まれていく。そしてまちにブルワリーやコミュニティの場があることでこの街で暮らすことが少しでも豊かになっていくような存在になれたらと思っている。
まちにブルワリーができるまでを備忘録のように振り返った。ここに書ききれないくらいお世話になった方はたくさんいて、そういった方々がいたからこそ、まずはスタートラインに立てた。あっという間に過ぎた大事な時間を忘れないように、そして初心を忘れないように、ふとした時に見返したいと思う。
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