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次世代の医学教育のかたち 2/n

東京どまんなか4.0で
講演者として発表してまいりました。

このシリーズは、
東京どまんなかのプレゼンテーションに
どのような工夫を散らばせたのか
という舞台裏を記していきます。

1/n https://note.com/kokushitorisetsu/n/n1f068df5d57d


医師国家試験過去問ソムリエ

臨床医としてのキャリアと
医師国家試験予備校講師のキャリアのおかげで、

臨床の現場で医学生を指導していると
「この内容って国試ではこう出題されている」
という不思議な特技が身に付きました。笑
その特技を少し紹介しようと思います。


今回のセッションでコアになったのが
医師国家試験の過去問115F60-62の3連問です。
https://medu4.com/115F60
https://medu4.com/115F61
https://medu4.com/115F62 (出典:medu4.com)

6メートルの高さから墜落して受傷した22歳男性が
受診時にショック状態に陥っており、
①その病態(何のショックか?) 115F60
②現時点の対応 115F61
③さらに急変したときの対応 115F62
を問うという臨床に即した良問です。


医師国家試験には連問が配置されますが、
最大で3連問に留まります。

これをどのように膨らませて
10連問にさせるのかというところで
私の腕が問われます。

国試過去問ソムリエにとっては
力を発揮できる領域なので、
今回の問題設計の舞台裏について
話していきたいと思います。


問題設計の舞台裏

問題1 問題9(メイン)を解くための伏線
問題2 伝えたいメッセージを説明するための問題

問題1はオリエンテーション的に配置して、
問題9の正答となる「胸腔穿刺」を
参加者全員が選べるように、
どのようなときに胸腔穿刺が適応になるのかを
それとなく説明する役割を持たせています。
(110G18)

そして、今回のプレゼンテーションで
最も伝えたい「臨床医の思考の原則」を
問題2を通じて一旦説明します。
状況を把握しないうちは
(緊急性が無い状況下に限る)
まずは情報を得るという姿勢について
説明するための問題チョイスです。
(113B27)


問題3
症例情報は111F60(今回のメイン)から、
設問・選択肢は108H24から抽出して
整合性を保てるように選択肢を微調整しました。
外傷初療のPrimary Surveyの作法を問う良問です。

問題4,5
実際の診療において、
静脈ルート確保という基本手技が必ず含まれていて
病院実習等の見学でも(視覚的に)見ているはずなのに
背景知識が不足しているために
実際は見過ごしてしまい学びのチャンスを失ってしまう
ということを伝えるための問題配置です。

問題4は、ショックの成人外傷患者に対して
どの静脈でルートを確保するかを問うていて(108F10)、
問題5は、同様にショックの成人患者に対して
どの静脈ルート針を選択するかを問うています(108H20)。

問題6は、メインテーマの115F60が該当します。
病態を問う問題であり、
受験生にとっては正答率が100%近くなる一方で
未習の年次にとってはかなりの難問です。
これまでの解説でそれとなく解けるようには
細かい布石を複数投じてはいるのですが、
それを拾い切る形で解説スライドを示します。

問題7は、問題4,5と雰囲気が似ています。
ERでの輸液製剤の選択を問うています(108B56)。

問題8は、気管挿管の手技についての出題です。
メインテーマの115F62では
「努力呼吸と舌根沈下が出現したため
 気管挿管を行った」という記述があります。
そこを深堀り出来るのが109H15です。
同一症例の中での文脈に
原作そのままの形でピタッと当てはまります。


問題9は、メインテーマの115F62です。
実は今回は115F60-62の3連問のうち、
115F61を採用していません。
実際に選択したのは、115F60と115F62のみです。

急変に対して何をすべきかという
臨場感のある良問が115F62です。
正答を選ぶだけなら問題1の解説があれば可能です。
ただ、現状を把握して適切に判断するには
レクチャー全体から得た学びの蓄積が
必要になるという位置付けにしました。

まだ臨床の講義が未習の学年にとってみると
とても難易度の高い問題ではありますが、
これまでの誘導に従ってくれれば
自然に解法プロセスに到達できるような
教材構成にしています。

・ショックの評価
・ショック対応の各論
・急変対応の原則
これまでの問題演習を通じて得た知識体系が
ここに集約されることを期待しています。


チェンジ・オブ・ペース

「ここが勝負どころ」という場面なので
ちょっとした工夫を施しました。

今回、RPGの雰囲気を保ちながら
臨床推論の勉強会プレゼンテーションを行う
というテイストだったので、
物語のクライマックス的に魔王を登場させました。

211018_東京どまんなかスライド_全体マップ

テンポの速い講義説明なので、
「ここで一息」
いわゆるチェンジ・オブ・ペースです。
RPGっぽい世界観を
呼び起こす効果も狙っています。

一度、立ち止まることで
全体を振り替えてもらったり、
この問題が要だと実感してもらったり、
少し緊張感を解く作用を意図しています。

「そうだ、RPGっぽい世界観だったんだ」
ということを忘れさせてしまうくらい
ハイテンポで進めているので
テンションを緩める機会を設けました。

魔王の登場によって
参加者から大歓迎を受けて
複雑な気持ちになったのは
ここだけの話です。(訳:うれしい)

211018_東京どまんなかスライド_魔王登場

コメントスクリーンを使用したのですが、
ハートやら笑顔やらの絵文字が飛び交い
めちゃくちゃ盛り上がりました。
講演者 兼 魔王ということで
キャラの使い分けが出来ておらず、
良い感じで笑いを呼び起こせた気がします。


最後の問題10は、問題9の続きに繋げられそうな
108E62をアレンジしました。

患者情報は115F62
設問/選択肢は108E62のアレンジです。
これから侵襲的な治療を行っていくという場面で
重要な判断を迫られるという状況の問題です。

現場の緊張感や雰囲気をよく残した良問なので
これは是非とも採用したいと思っていました。


以上、医師国家試験の過去問そのものから7問、
微調整を施したアレンジ問題3問を厳選して
今回のレクチャーの教材としました。


国試過去問ソムリエ/DJのミッション

医師国家試験の予備校講師は
過去問の分析に習熟しており、解説の質が高いです。

現場の臨床医は
実臨床の臨場感を熟知しており、
その連続性や分岐に沿ってパフォーマンスを発揮します。

医師国家試験の過去問には
実臨床のリアリティをよく反映した問題が
多数含まれているのですが、
診療の一場面を切り取った断片的なものなので
医師国家試験の過去問解説と実臨床の連続性とを
いいどころ取りした教材は現時点では存在しません。
国試過去問ソムリエはそれが可能なので
今後、活躍の場がたくさん増えたら良いなと思っています。

ソムリエというよりは
DJのノリに近いと思っています。

既存のオリジナルの曲を
うまく繋げて一連の作品にして
ときには加工してミックスさせるという過程が
似ていると思うのです。

これからも国試過去問ソムリエないしDJが
登場させられるよう、努力したいと思います。

(つづく)

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民谷 健太郎
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