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動物飼育情報取扱業の創設を~要件は命への覚悟


<はじめに>

数年前に、blogに載せようと思っていた記事がありました。ハムスター虐待の動画がYouTubeに挙げられて騒ぎになっていた頃に書きかけていたんだったかと思います。2019年ですかね。けっこう前ですね。その頃に動物関係の知人が「そもそも動画配信で収入を得ているんだから『業』だよね」と話していたのがきっかけで考えたことです。

それは「動物飼育情報取扱業」を創設しよう!という、まあ、半分冗談ですがけっこう真剣でもある提案で。

ただ、「自分はどうなのか」とか「本を制作するときに情報提供してくれている方たちのことを言っているわけじゃないのに、失礼にならないだろうか」などと考えていると手が進まず……なうちに時間だけが経っておりました。

しかしやはり「うーん、このネット記事は…」と思うこともよくあるので、意見表明をしておこうかなと。本気でこの提案を通そうとしたら、表現の自由との戦いがあったり(戦う相手は憲法だから大変)、そもそも誰がその適切さをチェックするのかといったハードルがあるので、本気かといわれるとちょっと困りますが、真剣、真面目ではあります。

<新たな種別「情報」>

配信やネット記事掲載、それらよりももっとたくさんの人が見るであろうテレビ放送、それらによって利益を得ているのならば(むろん動物ライターもここに入るのでしょう)、それは「業」といえるので、「第一種動物取扱業」に該当する、という理屈はどうでしょう。

だって、生体そのものを扱っていなくても、その提供する情報が「命」に関わるものであるという意味では、同じことだと思うので。

第一種動物取扱業は「有償・無償の別を問わず反復・継続して事業者の営利を目的として動物の取扱いを行う、社会通念上、 業として認められる行為のこと」です(下記東京都サイトより)

種別としては、ペットショップなどの「販売」、ペットホテルやシッターなどの「保管」、ペットタレント、ペットレンタルなどの「貸出し」、トレーニングをする「訓練」、動物園やふれあいなどの「展示」、ペットオークションの「競りあっせん」、老犬老猫ホームなどの「譲受飼養」があって、これらの業をやるには登録が必要なんですね(動物の種類は哺乳類・爬虫類・鳥類)。

この種別に「情報」カテゴリーを新規追加して、放送や動画配信、ネット記事(紙媒体も、ということになりますね)で動物飼育に関する情報提供を業として行うなら、登録が必要になる、というご提案でございます。情報提供に責任を持つ、ということですね。

<新たな業「動物飼育情報取扱業」>

ただ、今ほんとうにある動物取扱業の種別は、いろいろな形態があれどどれも動物それ自体を実際に扱っているわけです。そうなるとやはり「情報」はちょっと毛色が違いすぎますね。そこで、「動物飼育情報取扱業」を創設しませんか、というご提案になります。

紙媒体にせよネットにせよ、動物の飼育情報を不特定多数の人々に対して提供する、という行為には、有償・無償に関係なく、なんらかの縛りが必要なのではないのかな、と思うんです。

縛りというのとはちょっと違うな。規制、でもない。「心構え」、かな。

紙媒体だろうとネットだろうと、とてもすばらしい情報もあれば「なにを根拠にこんなことを」というような情報もあるわけです。

ただ、書籍などの場合は通常、本になるまでの間に複数の人が関わっていますし、動物飼育の書籍であれば監修者として専門家が関与していることもよくあります。参考資料も記載しています(してない書籍もあるけど)。ある程度はふるいにかけられた情報だといえます。

ところがネットだと完全に玉石混交。石の中から玉を見つけ出すという作業をしなくてはならない。玉だと思ったら石だった、というのは、スーパーでアボカドを買うときのチャレンジならガッカリで済むけど、相手は動物です。玉を見つけなくてはならない。

もちろん紙媒体にだって石もあります。

いずれにせよ、情報を提供する側は「できるかぎり玉を提供します=できるかぎり適切な情報を提供します」という気持ちがなくてはならないだろうなと思います。

受け手が、どんな背景をもち、動物についてどう理解しているのかがわからない。情報提供側が伝えようとしていることが、その意図どおりに伝わっているのかもわからない。

受け手が見えないなかでの情報発信はとてもこわいことです。

<扱っているのは【命】だということ>

なぜなら、誰がどんな媒体で飼育情報を提供をしていようが、扱っているのは「命」にほかならないからです。

ずっと前に、あるペット雑誌でお世話になっていた獣医さんからいただいた言葉があります。それは、『大野さんのやっている仕事も、獣医師と同じで命を扱っているんだよ』というもの。もちろん、「獣医師と同じ」ではなく、「命を扱っている」が重要なところです。今でも大切にしている、肝に銘じている言葉です(自分のために書いておきますが、自分がなにかポカをしたためのお叱りの言葉……というわけではありません)。

飼育情報を扱うってそういうことだと思います。

「なんて真摯に動物と向き合っているんだろう」と感服させられるサイトを見かけることもあります。命を扱っていることをわかっているんだろうと思います。

でも、うーん、これは…というのも見かけますね。

いろんな情報がごちゃまぜにある混沌感はネットの魅力のひとつだと思うし、ネットに載っている情報がすべて優等生なものでなくてはならない、とは思いません。それじゃつまんないよね。

ただ、「命」を扱う情報がそれでいいのかな、と。

「命」を扱うからには、載せる情報がどう受け止められるのかな、というところまでも考えなくちゃいけないと、これは私もいつも気をつけていることではあります。

そんなこんなで、動物の飼育情報を提供するならば、「『命』を扱う覚悟」を示すための「動物飼育情報提供者」という届け出を行うべきではないか。それによってなんらかの利益を得ているならば、「動物飼育情報取扱業」として登録すべきではないか。と思うわけであります(なお、最初にも書きましたけど、半分冗談だけどけっこう真剣です)。

<「心構え」は持ってほしい、あなたも私も>

じゃあ届け出や登録をすりゃいいかっていうとそんなことはなくて、問題なのは提供される情報の内容ですよね。

とはいえ、ことペットの飼育方法に関して「なにが正しいか」は、そう簡単に判断することができないです。正確な情報が存在するものもあれば、いわゆるエビデンスがなかったり、諸意見があったり、というもの多いです。

だから、「動物飼育情報提供者」「動物飼育情報取扱業者」に必要とされるのはただひとつです。

「命を扱っていること」の覚悟です。その心構えを持って、飼育情報を提供してほしい。むろん、自戒しています。

「この書き方で大丈夫かな?」「誤解する人いないかな?」と考えながら情報を発信したいですよね。「これならバズるかな?」じゃなくて、さ。

<画像や動画にも情報はたくさん>

文字情報に限らず、画像や動画で伝えられる情報もたくさんありますね。

自分の仕事でいうと、飼育書を作るときには飼い主さんが撮影した画像をたくさん掲載させていただいています。「実際に家庭にその動物がいる」というリアル、「飼う」というリアルをお伝えしたいというのがひとつですが、もうひとつ、「そこには飼い主さんと動物の『絆』も写っている」と思っているからなんです。

だからSNSなどネットにあげられている画像を見ても、「ああ、このペット飼い主さんも幸せなんだろうなあ」と心底ほのぼのあたたかな気持ちになったりします。

でもこれって、逆もあるわけで。

もちろん虐待しているなんていうのは論外なんですが、つい「かわいいなあ♪」と思ってしまいがちな画像が、ミスリードを起こしかねないということもよくあったりします。

たとえば太り過ぎのペットたち。テレビで取り上げられたりSNSでバズったりするなかには、明らかに太り過ぎの動物というのがけっこうあるように思います。そういうものを見て、ああいう過度な肥満体型でも別に問題ないんだな、と思ってしまう人たちもいるのではないかと。

そして異種動物が仲良くしているところ。そりゃあなかにはなんの問題もなくうさぎと犬猫が仲良くしている家庭もあるでしょう。でもそれはその家庭だけでのことだし、そもそもその家庭の(たとえば)うさぎと犬が明日にはどういう関係性に変わっているかなんてわからない。ましてや、仲良しな様子を見て「よおしうちの子たちも」なんてことは絶対にやってはいけないことで。

いろんな動物たちが仲良く遊んでいましたとさ、は絵本の世界にとどめておいたほうがいいんです。動物には罪のない、痛ましい事故が起きる前に。画像や動画も、「なにか勘違いされないかな?」と考えてほしいなと思います。

<これは情報提供者さんへの真面目なお願い>

あと、この項目については今すぐにでもやってもらえることだと思いますが、動物の情報を載せるなら、少なくとも書いてる人はどこの誰なのか(本名でなくてもいいんですが)、いつ掲載したのものなのか、参考資料などは書いてほしいなあと思ってます。

問い合わせ先のようなものがどこにも書いていなかったり、日付がわからないと、その情報が古いものなのか新しいものなのかもわかりません。

ネットで飼育情報を提供するならば、どこのどなたが書いているのか、問い合わせ先はどこなのか、作成日付(更新日付)、参考資料は何なのか、といったことは書いておいてほしいなあ、と思います。

<おわりに>

ことほどさように、動物の飼育情報を扱うというのは難しいものです。

この投稿で伝えたいことは心底本当に思っていることですが、よおし推進していくぞ! というには困難しかないし、自縄自縛というか返す刀で自分も斬られちゃうような面もあるし、まあ難しいよね、とは思っています。

ただし、「命を扱うこと」への真摯な気持ちは持ってほしいし、自分も強く思っているところです。動物の飼育情報を発信しようとしているあなたも、もちろん私も、「この言葉が、この画像が、ネットの向こうにいる人たち、本の向こうにいる人たちにどう伝わるのか」を考え、「命を扱っているのだということ」を常に心において、動物の飼育情報を発信していかなくてはならないと思っています。

ではまた。

トップ画像は国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/1906488
金井紫雲編『芸術資料』第一期第二冊(芸艸堂、昭和11年)より
円山応挙《藤花狗子図》より一部

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