『象の旅』 ジョゼ・サラマーゴ
何気なく紹介してもらった本を、ずるっと読み始めた時、思いも寄らない胸に響く本に出会う時があります。
そんな一冊がこの『象の旅』でした。
知人に村上春樹の『象の消滅』の話をしたあと、それならこの本はどう?と勧められたのがきっかけでした。
とにかく、リスペクトしている本読みの方から勧められると、ついポチッとして
しまう癖があります。まぁ、大抵は外れないのだけど、あぁ自分の感性とは違うか
もと思うものもたまには在るよねえ、それは。
この本は、最初えらく気持ちののらない本でした。
(そういう本は、割と最後に化けるのです)
ソロモンという名のインド象が、象遣いとともに、ポルトガル国王ジョアン三世
からオーストリア大公マクシミリアン二世への婚儀の祝いとして贈られること
になる。輸送手段はなく、象と象遣い、そして護衛一体は歩いてイタリアを抜け、冬のアルプスを越えてウィーンに着く。まあそういう話なのだけど。これは史実。
この史実を耳にしたジョゼ・サラマーゴがこの『象の旅』という小説を書いたと
いうわけです。
サラマーゴはポルトガル生まれ、1995年に出版した『白い闇』がベストセラーに
なり、1998年にポルトガル語圏で初のノーベル文学賞を受賞した。この『白い闇』は2020年に文庫化され、新型コロナウイルスの感染流行と重なったため、再び世界的なベストセラーとなった。
象遣い(スブッロ)が象(ソロモン)の肩にのり、一行と旅をする。
象遣いは、道中の様子、象の様子を気に留め、考える。時には現実的に時には
哲学的に。
語り手はサラマーゴ本人で、(時々顔をだす)皮肉や現実的な意見を挿入して
読者に考えさせる。
象遣いは多分に哲学的でしばしば唸ってしまったり、おかしくなってしまったり。
サラマーゴ自身はこの本を人の一生のメタファーなのだと言っている。
当時のポルトガルは近隣諸国の勢力や栄華と比べ、小さな田舎都市だったので、
その立ち位置たるや、振るわない。
象が旅をする、それを俯瞰していた作者が語り手としてずっと追いかける。
まぁ、言ってしまえばそんな話で身も蓋もない。
でも何故がこの本の中で話された会話やモノローグがずっとざわつく。そんな
読後感でした。
一度や二度の対決では太刀打ちできない、そんな気もしていつかまた読まなくちゃ
と我が家の本棚に鎮座している一冊になった。