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99才、わたしいつ死ぬかわからないから食べたいものを食べようと思って。

職場の施設にいる利用者の方は、100才近い方が多い。そしてみんな驚くほど生命力に溢れている。
少し前に老衰で亡くなられた女性の話を、ここに残しておきたい。彼女は99才で普段車椅子だが、出来ることは自分でしたい、と自分に対して常に律している人だった。できる限りの介助しか求めない。だってなんでもかんでもやってもらってたら、何もできなくなっちゃうからね。自分でするってことが大事。今までやりたいと思うことは全部してきた人生よ。だからね、後悔なんてひとつもないわ。人生は一度きりなのよ、だったらすべてやり尽くして悔いない人生にするのが一番、だいたいね、こんなところに入ってる人なんてね、ま、私もそうだけど変わり者が多いのよ、そんなことを言いながら彼女は笑う。頭はしっかりしているが、ある時期から少しずつ物忘れが増えてきた。
それくらいだろうか、急に少し高めのチーズやバターなどを買ってきてほしい、と訴えるようになった。あのね、もうそろそろ先は長くないような気がしてきたから、今のうちに高くてもいいから、おいしい、上等のものを食べておきたいの。彼女は悔いが残らない人生にするために、はっきりとした意思表示で宣言するかのように言った。目の奥に力を感じたし、彼女は最後の力を振り絞って、生きよう、と決めているのだと思った。線香花火の消え落ちる前の静かな火花のようにも思えた。しばらくそれらを堪能した後、少しずつ食事量が減り、食堂へ降りてくることができなくなり、居室で食事介助になり、徐々に摂取量も減り、亡くなられた。

おそらく、彼女は99年間、想像した未来も想像しなかった未来も生きてきたはずだが、こう在りたい未来の現実をわたしは生きる、と決めてきた人だ。



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たみい
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