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わたしのスクラップノート/ミランダ・ジュライ/現実世界が創作の源



延々と個人的なスクラップをまとめておくための場所。
わたしのスクラップノートマガジン。

今回は、新聞記事より翻訳家岸本佐知子さんによるアメリカ人作家ミランダ・ジュライの紹介記事を。

では、どうぞ〜。



彼女はごくごくありふれた素材を使って、痛いくらいの切なさと共感を呼びおこす。
たとえば、夜、寝床の中で、自分が人からウザがられる理由を頭の中で箇条書きにしてみる。でも結局それらを直したところで、自分がウザくなくなったことに今の友達は気づいてくれないだろうと考えて悲しくなる。あるいは、独りぼっちでもう何日も誰とも口をきいていなくて、お店で見知らぬ人とちょっと会話しただけで、なんだか胸が温かくなる。目を閉じる前に、今までに自分を嫌な目に遭わせた人たちが、みんな口々に「ごめんね、あれは全部嘘だったんだ」と謝ってくれるところを想像してみる。
誰の心の中にもある、でもそんなものがそこにあることさえ気づかなかった何かのスイッチを、彼女の小説はそっと押してくれる。
そして読み手は、自分が登場人物たちと同じくらい孤独で、同じくらい強く誰かと繋がりたいと願っていたことに気づかされる。「これは私の物語だ!」そう叫ばずにはいられなくなる。

<作家本人から>
自分の中の悲しみと絶望といった感情がわき起こることがあって、それを現実世界から取ってきたディティールと結びつけるところから、私の小説は始まります。そこからどんなものが生まれてくるかは自分でもわかりません。
たとえば以前、飛行機の後ろの席で女の人が、誰かに留守番を頼んだらその隙に飼っていた鳥が逃げ出して、それをどうやって捕まえたかを話しているのが聞こえたことがあって、私はその人の言った「あなたガブリエル(鳩)が逃げたとき、家見てなかったの?」みたいなセリフを書き溜めておくんです。
他人の会話に聞き耳を立てているというわけではないんですが、そういう小さなことが、自分の中の個人的な何かに刺激を与える、というか。それが私にとっての創作に源、というところはありますね。

毎日新聞2014年1月7日(火)夕刊記事『世界文学ナビ 北米編10』より



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たみい
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