抱っこ紐でジャズ喫茶にかけ込む
息子が0歳児のとき、義母が「この間友達と高槻のジャズ喫茶に行ってん。ソファが革張りで〜」と話を聞いた瞬間に、なんだかワクワクして「行こう!私もそのジャズ喫茶行こう!」と決めた。平日の昼過ぎに、バスと電車を乗り継ぎ、その店へ向かった。ママ友を誘うとか、そんな選択肢はない。大体のママ友はジャズなんて興味がないのだから。
ベビーカーは邪魔だから抱っこ紐で息子を連れた。駅を降り、方向が全くわからない。八百屋の大将に話しかける。
「すみませーん、○○って店はどこにありますか?」
大将は快く道を教えてくれ、最後にこう言った。
「せやけど、その店ジャズ喫茶やで?そんな赤ちゃん抱えていくんか?」と不思議げに。私は満面の笑みで「はい!」と答えた。
大将の不思議がる表情はよくわからないが、とにかくジャズ喫茶に行きたいのだ。教えてもらった通り、店はあった。店内薄暗く、義母の言う通り座り心地の良さそうなソファがあった。息子をゴロリと寝かせる。まだ歩き出す前なので、非常におとなしい。グレープフルーツジュースを頼み、何をするわけでも、誰と話すわけでもなく、ボケーっと無になる。店内が暗いので、窓の外の光りが眩しく見える。カウンターでコーヒーを淹れる音、食器が重なる音、大人たちの静かな話し声、店内の空気を染み込ませる。
ジャズを聴きながら、ジュースを飲み、ウゴウゴ動いてる息子を見つめて、滞在時間三十分ほど。そのままとんぼ返り。帰宅した頃には、身体中が充足感で満たされ、ニュートラルになっていた。
ジャズ喫茶の空間にいると、母でもなく、妻でもなく、女でもない、ただの人、になれるような気がするのだ。
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