Blenderで実写合成MVを制作した話。
こんにちは、映像ディレクターのタカハシカズキです。
昨年(2024年)の秋に、フル尺の実写合成MVの制作を行いました。
まずはぜひ、本編をご覧ください!
制作の裏側も一部はIGにてBTSとして公開しています。3本出しているので興味がある方は見ていただければと思います。
元々Blenderに少し触れたこともあり数年前には実写合成にチャレンジしていたのですが、普段は実写MVを主戦場としており、実写合成は初めての経験でした。今回は、(#完全に我流ですが)実写合成MVのワークフローの全体像をご紹介できればと思います。
かなりのボリュームになってしまいましたが、よろしければ最後までお付き合いください。
1. ワークフローの全体像
今回のMVはバンドから依頼をいただいて、実写合成MVで制作を行うことを決めて以降、以下のような進め方をとりました。
企画構成・撮影準備
撮影
背景制作
カット割・キーイング
ライティング
アニメーション・カメラワーク制作
レンダリング
仕上げ
それぞれの工程が初めてのため試行錯誤したりやり直しをした部分もありますが、概ね上記のような流れで進めました。
なお撮影以降は以下のように進めました。
メインのツールはDaVinci Resolve(以下、DaVinci)とBlenderで、Aeを細かいところで少し使用しています。
撮影後、Blenderでの背景作成と並行でDaVinci Resolveでキーイング/カット割を行なっているほか、細かなホログラムなど2DモノはAeで制作しています。これらをBlenderに集約して、ライディング・カメラワーク・レンダーしたものを、DaVinciに戻して仕上げ(カラーグレーディング)、MVとして全編書き出ししています。
それでは、各工程について少しづつ掘りさげていこうと思います。
1.1 企画構成・撮影準備
全体コンセプトの整理と、撮影に向けたショットリスト作成や撮影そのものの準備を行ないました。
今回のMVのコンセプトですが、DARMAという曲名/歌詞やバンドの雰囲気から、ダルマの鎮座するサイバー都市とその下に広がるダウンタウンをイメージしました。ダウンタウンから都市の中心へ這い上がる、そんな心意気を込めています。また、楽曲展開も非常に複雑かつ激しいため、4シーンを制作することを企画段階では考えていました。最終的には合計で大きく6シーンを作成し、さらにアニメーションをつけて展開ごとにシーンを切り替えることとしました。
また想定したシーンに合わせたショットリストや照明想定なども事前に準備しました。
実写合成撮影というところもあり、撮影に向けては以前から拝見していた涌井さんのnoteを改めて読み返し、技術的な面や準備での抜け漏れがないかの確認も行いました。撮影に当たっては非常に参考になりました。涌井さん、ありがとうございます。
1.2 撮影
ショットリストなどを準備して撮影に臨みますが、ここで本作の面白ポイントその1。撮影したのは実は音楽スタジオ。グリーンバックを張って、ライティングを組んで撮影しました(諸々の事情により)。
仕上がりやキーイングのしやすさにも影響するので、やはり可能な限り設備の整ったスタジオで撮影するのが良いですね。
なお、撮影はsony a7s3でs-log3収録です。
1.3 背景制作
順番に書く都合で、背景制作が撮影の次となっていますが、撮影前の段階から背景の施策は進めていました。撮影現場では仮でキーイング、合成して仕上がりの様子も確認しましたが、最終的な本編にはこの段階での背景は使用しませんでした。
前述の通り、合計6つの背景を制作しています。
参考資料はPintarestで集めるなどしながらイメージを膨らませ、制作しました。
サイバーパンクな都市の制作の一部をここではご紹介できればと思います。
モデルは自分でモデリングしたもの、購入したものを駆使しています。
自分は、課題点ではありますが、モデリング能力がそこまで高くないため、細かな部分は無理をせず有料モデルを購入しました。
購入先は主にBlender Marketです。
また、ダルマのモデルについてはバンドメンバーがスカルプとができたため、そこだけ作ってもらいました。Sanaeさんありがとうございました!
また、みなさんご存知IanさんのPatreonも非常に参考になりました。
有料ですが非常におすすめです。
1.4 カット割・キーイング
背景がおおむね固まったところで、撮影素材のキーイング・カット割を行いました。実際の作業では、1背景ごとに該当箇所をキーイング・カット割を行い、後段のカメラワークの作成とレンダリングのサイクルを実行して、スムーズかつ短時間で書き出しができるように事前に調整しています。
キーイングというとAeで行う方が多いかと思いますが、本作は自身が普段メインツールとしているDaVinciで実施しています。
詳細についてはYoutubeでもいくつかチュートリアルが上がっているほか、
先ほどから連発しているIanさんのPatreonでも解説されています。
DaVinciではFusionページでのキーイングになるため、ノードを組む必要があるのですが、ノードは一度組むとプリセットとして保存できるため、一度のノードを組んだ後はコピペでおおむね済みました。
なお、Drやシルバーの衣装だったメンバーのキーイングには随分苦労しました…
1.5 ライティング
ここまで制作した背景にキーイングした映像、細かに作成した2D素材をBlender上で配置してライティングを行い、全体が馴染むように調整しています。
キーイングした素材は、サイズ感や足元の浮き感も考慮しつつ、一つ一つ手作業でシーン上に配置しています。
各メンバーを撮影する段階での実写でのライティングとシーンのライティングを合わせるよう、意識して制作は進めました。
また、ワールド設定は以下のadd-onを利用しました
1.6 アニメーション・カメラワーク制作
ライティングと並行して行なっている部分はありますが、必要なシーンではアニメーションを付与しています。また、今回は全ての映像素材を三脚固定で撮影しているため、Blender内でカメラワークをつけています。
カメラワークについては、書き出し回数を極力減らせるように、シーン中にカメラを必要数だけ置いて、アニメーション後、タイミングタイミングでどのカメラを有効にするか、キーフレームで切り替えるなどしていました。
この辺りは、需要があれば今後別記事でもう少し詳しく書き記そうと思います。
また、個別のシーンの工夫として、サビ前の構成に関してはカメラは固定した状態で被写体を回しながら撮影した素材をBlender内に配置の上、撮影時とは逆方向にBlenderのカメラを回すことで、あたかも回転しているかのようなショットに仕上げています。制作背景のBTSをIGに載せているのでよければご覧ください。
また、定番といえば定番ですが、落下するように見えるカットも、同様にFixで撮影した素材をBlender内で動かすことで、あたかも落下しているかのように、仕上げています。
1.7 レンダリング
今回は全編、EEVEEでのレンダリングです。書き出しはOpenEXRを使用しました。レンダーパスを使用していないのは、己の未熟さゆえです。。。
なお、使用した自宅のマシンスペックは下記の通りです。
実は制作過程でマシンスペックが不足し、このマシンに買い替えています。
1.8 仕上げ
BlenderからOpenEXRで書き出した素材を、DaVinciでRec.709に変換しつつ、変換過程でカラーグレーディングを行いました。また、このタイミングでいくつか被せるような形でエフェクトを追加しています。
#仕上げ、と表現しているのは、Blenderからの書き出し結果を特にコンポジットしているわけではなく、コンポジット、と表現するのが憚られたためです。
ここでのDaVinciの処理が最終処理で、本編として書き出しています。
2. 終わりに
ここまで、制作した実写合成MVの制作過程を紹介してきました。実際にやってみた感覚は時間と根性さえあれば、やってやれないことはない、というところです。また、予算の中であっと驚くような表現をと入れていくという面では、実写合成には非常に利があると感じました。今後の制作においても積極的に活用できるよう、研鑽を進めたいと思います。
最後に、直近の私の制作をShow Reelとしてまとめておりますので、よければご覧ください。
Blenderについても、文章面についても稚拙なところが多々ある中で、ここまでご覧いただきありがとうございました!