会社が倒産したから、放送作家になれた。
大学を卒業した後、新卒社員として地方の広告制作会社に就職し、「コピーライター」という大層な肩書きを手に入れました。
社長が一代で築き上げたこの会社。
インテリアにこだわった内装。
「実は新卒採用は昨年から始めた新たな挑戦で、自分が持っているノウハウをもとに構築したやり方で新人でもしっかりとした仕事ができる。今の夢は業績を上げていって自社ビルを建設すること。実はこんなものもあるんだよ。」と紙に起こしたデザイン案を見せながらユーモアを交えて語る社長。
内定者や先輩社員の笑い声に包まれる和やかな会議室。
そんな「ブラック企業」とカテゴライズされるであろう会社でした。
入社してからわかったのですが、社長が典型的なワンマンで、社長の言うことは絶対。
みんな残業をしていて、営業職の人には時間を問わず社長からメールや電話が来ることもあったみたいです。
社長の外面がとても良かったので、新卒も含めて社長の信念や人柄に惹かれて入ってくる人が多いのですが、みんなそのギャップにやられるとのこと。
案の定、ギャップにやられている同期の姿を何度となく見ました。
大げさではなく、社長+側近的なベテラン社員 vs その他の全社員(バイトも含め)みたいな構図になっていたと思います。
そんな中、放送作家の仕事に興味がありつつもそちらに振り切ることもできず、「就職したら親も安心するだろうし、仕事に慣れてから養成所に通ってみよう」と軽い考えで雑な就活をした結果、たまたま採用されて入った自分は、幸か不幸かその病みに苛まれることはありませんでした。
社長のことも別に好きでもなければ嫌いでもなく「夢あるおじいさんだなー」くらいに思っていました。
ただ、同期や良くしてくれている先輩社員の皆さんが理不尽に怒られるのを見るのは嫌だったので、苦手ではありましたが。
そんな感じで始まった前途多難なコピーライター生活。
会社っていうのはこんなものなのかなーと思いつつ、日経新聞を読みながら通勤していました(形から入るタイプ)。
仕事はありがたいことに結構ありました。
社長のアドバイスも結構役に立ちました(人柄は置いておいて)。
業績も右肩上がりで、この勢いに乗って会社を大きくしていきたいということで、社長はとにかく人を増やしていきました。
秋には来年春から10人近く新卒社員が入ることになり、オリエンテーションも行われました。
社長はリクルートスーツに身を包んだ内定者に「実は新卒採用は一昨年から始めた新たな挑戦で…」と語っていました。
私は「すごい『実は』って言うなー」と思いながらその話を聞いていました。
そして、その日は急に訪れました。
入社して10ヶ月後の2010年1月、会社は民事再生法を申請する=会社は消滅しないが倒産することになりました。
人件費がかさみすぎて採算が取れなくなってしまったのが原因でした。
新年早々にそのお話があって、希望退職者が募集されました。
その後、自分を含めた9割以上の社員が退職希望を出し、あんなに雄弁に夢を語っていた社長の勢いが明らかになくなり、人に嫌われることの怖さと辛さを学んだのですが…この話を聞いた時「ラッキー!」と思いました。
というのも、心のどこかで「何もないところから、放送作家になりたいという話をちゃんと親に言えない・説得できないだろうな」と思っていたからです。
意図せず会社が倒産して、仕事がなくなってしまったことで「どんな仕事でも急になくなることがある。だから、こういうことをやってみたい」と言うそれっぽい理由を言うことができて、2010年4月から養成所に通うことになりました。
というわけで、会社が倒産したことによって、
・のらりくらりと説得をして養成所に通えることになった
(学費も会社員時代の貯金で全額払えた)
・失業保険をもらうためにバイトができないので、養成所で開催されるお笑いライブの手伝いをすることができた
(養成所の先生方や芸人さんと知り合うことができた)
・結果、放送作家になれた
(ついでにこの記事も書けた)
という感じで色々とつながっていきました。
もっと言うと…
・失業保険をもらうために働けないので、養成所で開催されるお笑いライブの手伝いをすることになったら、大学時代にラジオドラマの演出をしたくなさすぎて極めた「音響出し」のテクニックがめちゃくちゃ役に立った
・失業保険をもらうためにバイトができないので、謎解きイベントのボランティアスタッフをするようになった
という感じで、さらにおまけのプラスがつながっていきました。
人生何が起こるかわかりません。
不思議なものですねぇ。
この文章を書きながら、ふと会社の同期は何をしてるんだろうか?と思いました。
最初があんな仕事だったから、定時で終わる堅い職業に就いていた人が多かった気がするけど…元気にやってるんだろうか?
こんなご時世ですから、ZOOM飲みでも企画してみましょうかね。