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「バンクシーを盗んだ男」:グラフィティとは何か

21時35分開始のその日さいごの回。同じスクリーンを観ていたのはおよそ10人ぐらいだった。

今回の映画は「バンクシーを盗んだ男」

個人的には人が少ない映画館のほうが好きだけど、すてきな作品をピックアップして上映してくれる映画館のためにも、この作品をつくった人たちのためにも、この映画をぜひ多くの人にみてほしいと思った。
   
「バンクシー」というのは、イギリス・ロンドンを中心に活動する覆面芸術家のこと。(https://goo.gl/XAtO97
   
舞台はパレスチナ・ヨルダン西岸地区にあるベツレヘム。「パレスチナとイスラエルを分断する高さ8メートル、全長450キロを超える巨大な壁」に描かれたグラフィティを追うドキュメンタリー映画だ。

映画は、美術品の収集家やディーラー、芸術修復家、キュレーター、著作権専門の弁護士、ストリートアーティスト、ベツレヘムの人々など、グラフィティにまつわる想像以上に多角的な視点を提示してくれる。

盗まれたグラフィティ「ロバと兵士」を追いかけて世界を駆け巡り、人びとにカメラとマイクを向け続ける忙しい映像だったけど、音楽も出てくる人のことばもかっこいい。途中、ただただ若者の歌声が響くシーンは心地よかった。

でも、ポイントはグラフィティをテーマに描きながら、壁の存在そのものを嘆くタクシー運転手・ワリドの視点を中心に描いていたところだと思う。それがこの作品をグラフィティたらしめていたのではないか、と。

ワリドの話は、「アートか見世物か」とか、「メッセージか商売か」みたいな議論ではなかった。そういう論理の対立をすっ飛ばして、壁の存在は理不尽だと訴えていたように感じた。
    
それから、本筋からは外れるけど、映画に登場するアーティストのおじいちゃんが最高だった。「Facebookのプロフィール欄には“不服従者”って書いているんだ。国や制度に服従したらアーティストじゃなくて職人になってしまうからね」みたいなことを言っていた。

いたずらっぽい笑顔がお茶目で、会いたくなった。私はこういう人が好きだ。彼は怪獣のような格好をして自転車に乗ってまちを走っていた。


花を買って生活に彩りを…