【FF14】FF14のPvPにおけるランチェスター則
0.はじめに
FF14のPvPをやっていると「ランチェスターの法則」を耳にすることがあるかもしれない。あるいはその単語を知らなくとも、クリコン(フィースト)で人数不利が一旦できるとかなりきつくなる状況を知っている人は実質その法則を体験できている。
世間では「集団戦においては人数有利な方が圧勝する」なんて言われたりするのだが、実はこの主張は仮定が抜け落ちてしまっている。
当記事ではそのような法則の濫用に歯止めをかけるべく
1.ランチェスターの法則とは
2.仮定及び導出
3.人々の重要な見落とし
4.FF14のPvPにおける実例
を取り上げてまとめていこうと思う。数学にあまり造詣のない方も直感的に理解しやすいよう、なるべく正確性を意識しつつもかみ砕いて話していきたい。
※筆者は数学専攻ではなかった上、最後にきちんと触れたのはずいぶん昔のことです。誤りのないよう細心の注意を払ってはいますが、何かあれば連絡や意見などを是非寄せてほしいと思っています。
1.ランチェスターの法則とは
ランチェスターさんが1914年に第一次大戦勃発を契機に、戦闘における力関係を数理モデル化し、発表したのがはじまりとされる。
原著において、ランチェスターの法則は1次法則と2次法則の2つに分けられる。
自軍の人数を$${x(t)}$$、自軍の戦闘員の能力や兵器の質などを表す定数を$${\alpha}$$
敵軍の人数$${y(t)}$$、敵軍の戦闘員の能力や兵器の質などを表す定数を$${\beta}$$
と置いた場合
・1次法則
$$
\alpha(x(0)-x(t))=\beta(y(0)-y(t))
$$
種々の定数をまとめれば以下のようにも書ける。
$$
\frac{x}{\beta}-\frac{y}{\alpha}=const.
$$
・2次法則
$$
\alpha(x(0)^2-x(t)^2)=\beta(y(0)^2-y(t)^2)
$$
$$
\frac{x^2}{\beta}-\frac{y^2}{\alpha}=const.
$$
※軽い数学的な解説
$${const.}$$は「等式の左側が常に一定であるよ」という意味。
いちいち$${x(t)}$$の$${(t)}$$を書くのは面倒なので単に$${x}$$としてるが同じ意味。
実際にちょっと使って計算してみる。
腕前とか兵器とかは同等であるとする、その場合当然人数が多いほうが勝つ。
試しに自軍をx(t)として100人、敵軍y(t)として70人で戦闘を行ったとする。簡略化のために補給や戦略的撤退はないものとする。(つまり負ける側が全滅玉砕するまで続く)。そのときの戦闘終了時の自軍人数を$${x(∞)}$$と便宜上あらわす。
先程の条件(腕前と兵器性能が両軍同等である)からαとβが同一の値を取るので消去できるのはよいだろう。
一次法則が適用できるとすれば
$${const.=x(0)-y(0)=100-70=30=x(∞)}$$
つまり30人残る。まぁ互角であれば直感的に順番に刺し違えていって差分の30人が生き残ったと考えるのは無理のない発想だろう。
次に二次法則が適用できるとすれば
$${x(0)^2-y(0)^2=100^2-70^2=x(∞)^2\\\Rightarrow x(∞)\doteqdot71.4…}$$
となり、一次法則と比べ、二次法則が適用できる場合は圧勝することがよくわかっただろう
だが、肝心なのはいつ第一法則が成り立ち、いつ第二法則が成り立つのかという問いである。次節ではこの法則をそれぞれ導出することで切り込んでいく。
2.仮定及び導出
とりあえず導出しよう
・共通の仮定など
自軍の人数を$${x(t)}$$、敵軍を$${y(t)}$$とする。
α、βをもう少し数学的に定義して、
α:自軍兵士一人が単位時間Δtあたりに殺せる人数
β:敵軍兵士一人が単位時間Δtあたりに殺せる人数
とする。
実際のところ、クソ強い兵士もいれば弱いのもいるのでそこら辺は平均して考える。
2-1.第一法則
【仮定】
・「共通の仮定など」参照
・1対1の一騎打ちの戦いを片方が全滅するまで行う。〈詳細補遺参照〉
・人数差がある場合、余った兵士は対戦相手が出るまで待機し、戦闘に関わらない
【導出】
単位時間あたりの兵損失Δxと種々の量の関係式は
$$
\Delta x=-\Delta t\beta \\
\Delta y=-\Delta t\alpha\\
分数を作り極限をとって\\
\frac{dx}{dt}=-\beta\\
\frac{dy}{dt}=-\alpha
$$
と表せる。式を見ると両軍の損害はα(β)と時間の掛け算によって導かれている。
第1法則においては、ある時間までの損害を考えるうえで自軍敵軍の人数がどうのは一切関係ない。というのも、必ず一騎打ちの戦闘を行うので仮に敵軍の人数が多かったとしても多い分は戦闘に関与しない。そのため、その時敵軍が何人生きていたかは影響を及ぼさないのである。
上の微分方程式を解いてまとめると(計算は省略)
$$
\alpha(x(0)-x(t))=\beta(y(0)-y(t))
$$
2-2.第二法則
【仮定】
・「共通の仮定など」参照
・生存している全員が火力を集中させ、特定の1人を狙う
【導出】
単位時間あたりの兵損失Δxと種々の量の関係を考えると、
$$
\Delta x=-y(t)\beta \Delta t\\
\Delta y=-x(t)\alpha \Delta t\\
極限をとって\\
\frac{dx}{dt}=-\beta y(t)・・・\textcircled{1}\\
\frac{dy}{dt}=-\alpha x(t)・・・\textcircled{2}
$$
第二法則は全員で同じ人間を集中して狙う。従って、単位時間あたりに殺せる人数は一人ひとりの戦闘効率を表すα(β)より人数の分だけ積算式に早くなる。(共同作業。4人でやれば4倍早く倒せるよね、という話。)
よって、損失は敵軍の人数yとα(β)の積で表される。(ここが疑問になった人は補遺へ)
解いて定数をまとめたりしてあげれば、
$$
\alpha(x^2-x^2(0))=\beta(y^2-y^2(0))
$$
まとめ
上記等式から何が言えるのか。前節でも言及したがα、βの定義をしなおしたところでもう一度確認する。整理した式は
第一法則:一騎打ち
$${\frac{x(t)}{\beta}-\frac{y(t)}{\alpha}=const.}$$
第二法則:生存者全員が1体に火力集中
$${\frac{x^2(t)}{\beta}-\frac{y^2(t)}{\alpha}=const.}$$
以上からいえることは
第一法則:一騎打ち
→1次式の関係(性能と人数差の影響が同じぐらい勝敗に影響をする)
第二法則:生存者全員が1体に集中砲火
→2次式の関係(性能より人数差の影響が強烈に勝敗に影響する)
3.人々の重要な見落とし
さて、FF14にしろそうでないにしろ実際の戦闘において考慮すべきことがランチェスターの法則には考えられていない。
それは範囲火力である。実際これらは勝敗に大きく影響する訳であるが定式化したらどうなっているのか。掘り下げてみていきたい。(補給という概念も非常に重要であるが今回は省略する。)
3-1.範囲火力
敢えてここで第〇法則として扱うつもりはないが、範囲火力は従来の法則に当てはまらない挙動を示す。
・不十分な範囲火力の場合、ターゲットが分散するため働きが一次法則に寄る。
・複数人に向けて十分な範囲火力を出した場合、その人はそいつら全員に集中砲火している状態となる。従ってαの値がちょっと上がる。適用は二次法則。
・三次法則が適用できる例(FF14にはない例なので補遺へ)
・大量破壊兵器のようなものを用いた場合もはや人数が関係なくなり法則が崩れる。
3-2.弱者戦略
ここまでを踏まえ、人数不利な側はどのようにして戦うべきかを考えよう。
人数不利側はなんとかして二次法則の適用を避けたいのである。一次法則の適用できる場面になれば、数の暴力で押し切られずに個々の腕前が比較的生きやすい状態に持ち込める。
・補給を待つ
→重要だが今回はこれは前提が崩れるので説明はしない
・敵を分断する/攻撃対象を分散させる(味方は同じ敵を殴る)
→第二法則が適用できる環境下では人数不利な側は非常に苦しい。分断させることによって局所的に人数有利にする
→敵火力が集中してない状態にすると二次法則ではなく実質一騎打ち状態になり一次法則的に戦うことができる
※分割分断によって不利な側の有利を取る理論は有効なのだが、人数差が大きいとどう分割しても勝てないことがある。「何人なら分断戦略でギリ勝てそうか」という議論はまた長い話題なので今回は省略
・範囲火力を用いる
ある程度有効な(=殺傷力が十分な)範囲火力の撃ち合いに持ち込んだ場合、αの値が少し上がり善戦しやすい。
4.FF14のはなし
1.クリコンにおける弱者の理論
人数不利ができてしまった場合、下がるのが基本だがもし粘るとしたら以下のようなことをしたい
・範囲火力でαを上げてがんばる
→互いに2次法則が適用できる状態で3vs5の場合、拮抗に立つためには約2.5倍の殲滅効率が必要である。
→自分の有効打点を複数人に当てればαが上がるので、密集地に打つと良い
・敵の分断/タゲの分散をする
タゲが合わない場合敵は一次法則での戦いを強いられる。すると、αβの影響が強く出るので腕前の差に持ち込むことができるようになり人数差で押し切られにくくなる。
上記二つを持ち込むことで「敵は一次法則、自チームは二次法則」で殴れる状況を目指したい。
もちろん、斬鉄5人切りのような大量破壊兵器(?)も逆転の目を作れる。
2.FLRWについて(考察)
大規模ならどうだろうか。4人のLB合わせで味方が消し飛ぶ・・・なんてことを見たことがあるかもしれない。人数不利を覆す何かがあるのだろうか。あるいはただただαの違いなのだろうか。
考えられる仮説としては
①不意打ちを狙われている
→敵が反撃できないタイミングで狙われているため実質分断(のような状態)にできる
②αの値が極端に高い
→クリコンならまだしもFLでこれは相当無理のある値に見える…と思いきや密集地に当てれば当てるほどαの値はグングン上がるので①と組み合わせれば無理のない範囲に収まりそうだ
何が恐ろしいかというと、大規模PvPは個々人の腕の差が相当開くのでランチェスターの法則がなかなか働かない。
厳密な検証には計算がいるが、一応FLRWのPTが無双できる理由も多少数学的に解決ができそうである。
おわりに
ランチェスターの法則といえば「人数不利ならば2乗で負ける」というような不十分な言説がよく流れているが、厳密にこれは正しくないことが理解いただけたと思う。どのような状況で適応できて、どのような状況で適応されないかをしっかり意識することが正しい法則の理解につながる。これを機に現象を数学的にとらえることの大切さをしってもらえれば幸いである。
補遺
・第一法則は「一騎打ち」なのか?
→この一騎打ち、という考えは厳密にはそこまで正しくないらしい。集団戦ではあるものの、近接武器主体であるがゆえに振り回している間見方が化成できず結果的に一対一になっている、ということらしい
・二次法則の導出について
幅のある時間Δtに、どこか一点の時間f(t)の掛け算であらわしているのはおかしいと感じる人もいるかもしれない。だがもし、Δtの幅が狭ければこの掛け算は十分な精度があると言ってよいだろう。このあと$${dx/dt}$$と書くがこれはまさにΔtの幅を超小さくしていることに他ならない。(世間一般にこれを微分などと呼ぶ。)
・三次法則
→現代戦闘の航空戦+防空戦を行う場合に 「両軍の兵士の死傷率は自軍の一単位に対する攻撃力に (攻撃密度) 比例する。」こととなり、微分方程式を解くと3次式の形となって現れる。(2021,渡辺,p32)
・第二法則の微分方程式を解きたい物好きな人向け
一旦xについてだけ解いてしまってから、その後に①に代入してyを出した方が積分定数が少なくてスマートで済む。
$$x=C_1e^{\sqrt{\alpha \beta t}}+C_2e^{-\sqrt{\alpha \beta t}}・・・\textcircled{3}\\
y=\sqrt{\frac{\alpha}{\beta}}(-C_1e^{\sqrt{\alpha \beta t}}+C_2e^{-\sqrt{\alpha \beta t}})\\
x(0)=C_1+C_2\\
y(0)=\sqrt{\frac{\alpha}{\beta}}(-C_1+C_2)
$$
eだとか指数関数があるとちょっと見にくい。そこで、$${e^{\sqrt{\alpha \beta t}}}$$と$${e^{-\sqrt{\alpha \beta t}}}$$の積が1になることに着目すると
$$
x^2-x^2(0)\\=(C_1e^{\sqrt{\alpha \beta t}})^2+(C_2e^{-\sqrt{\alpha \beta t}})^2+2-C_1^2-C_2^2-2\\=C_1^2(e^{\sqrt{\alpha \beta t}}-1)+C_2^2(e^{-\sqrt{\alpha \beta t}}-1)\\
よって\\
y^2-y^2(0)\\=-\frac{\alpha}{\beta} \biggl( C_1^2(e^{\sqrt{\alpha \beta t}}-1)+C_2^2(e^{-\sqrt{\alpha \beta t}}-1)\biggl)\\
以上より\\
\alpha(x^2-x^2(0))=\beta(y^2-y^2(0))
$$
参考資料
これ別に論文じゃないのでウィキペディアのURL貼ります。(外道
戦闘における Lanchester の法則(2011,渡辺)
http://nalab.mind.meiji.ac.jp/~mk/labo/report/open/2010-watanabe-takayuki.pdf
ランチェスター第三法則
https://www.yaokikai.com/law3/index.html
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