見出し画像

西加奈子「うつくしい人」

全体を通して

 特に後半は読む手が止まらんかった。最高の一冊でした。自分の過去を振り返ってみて「あーたしかに」ってなることが多かった。
 あと、西先生の「きいろいゾウ」が理解の助けになってくれました。

 「ただそこにいた」(216頁)という言い回し、これは本書のキーワードの一つです。これが分かるようで分かりづらい。でもこれ以上の表現は無い気もする。

 少し考えてみました。「ただそこにいた」というのは、自分の見方・感じ方ひとつでその印象は変わるけれどそれが「そこにいる」という事実は変わらない、このような意味ではないでしょうか。
 そして、この揺るぎない事実にたどり着けばそれは拠り所になってくれる、そういうメッセージが込められていると思いました。

 拠り所というのは不安定な自分を安定させてくれる何かです。
 自分らしく生きるための指針だったり、不安の渦中から自分を引き上げてくれる命綱みたいなものだったりすると思います。

 ではどうすればその確固たる事実に気づけるか。

 それは「思い出に、背中を押された」ときかもしれないし(231頁)、「きゅうきゅうに苦しいときに、思いがけないやり方で、『誰か』に助けてもら」えたときかもしれません(234頁)。


1~5

1 23頁
 自分に大丈夫だと言い聞かせた次の瞬間に不安が襲いかかる感じ、すごく分かる。
 その「大丈夫」は自分の中では不動のものだったはずだったのに、一瞬にしてそれが崩れ去る。
 そして「憂鬱の波」(24頁)のような何かに飲み込まれ、立ち上がることもできず、手も上げられず、飲み込まれたまま打ちひしがれていくんだよね。

2 32頁
 背景事情を知ると見方が変わる。最近よく思う。

3 登場人物のフルネーム。なにか意図があるのかな。
→よくわかりませんでした。その名前の人が「ただそこにいる」ことを表現したかったのかもしれない。

4 60頁の1行目から6行目、めっちゃわかる。

5 「忌々しい過去の記憶」(65頁)の内容はもう紹介されたっけ?
→42頁?23頁にもちょっこりあったわ。
→95、137、193、199、215頁あたりが姉の話。
→103頁からがっつり。目を離せない。
→最後どんな話したんだろー。

6 23、67、100、118頁
 正常か異常(おかしい)かで判断しているのが気になる。
→79頁の言葉がなんかいい。

7 比喩もおしゃれ。矛盾した感情も丁寧に拾われている。人間味を感じる。

6~10

8 79頁
 「ごはんぐるり」を読んだばっかりだから、「私は徹底的に安心した」(同頁)の「私」は西先生自身に思えたし、その心地よさが伝わってきた。
→231、237頁

9 101、5頁
 重い。
→217、218、188、223頁

10 「臭いものなどより、よほど重い蓋をするしかない。」(106頁)
 黙殺≒無視する、の表現として、かつ、この状況における表現としてぴったりすぎた。

11~15

11 140頁
 姉が欲するものと百合が欲するものって結局同じじゃない?違う?
→145、111頁

12 147、213頁
 百合の本音。

13 149頁
 話を「ちゃんと」聞いてもらえなくても救われることってあるよね。
 ただただ心のうちをひっくり返してなんの事情も知らない人に全部吐露したい。聞いてもらえなくていい。そういうとき。
→237頁

14 186頁
 気づくかどうか。

15 207頁
 この言葉もいい。

16~17

16 221頁
 「疲れ」た。
→19頁

17 223頁
 日常。
→28頁

18 「私は誰かの美しい人だ。私が誰かを、美しいと思っている限り。」(227頁)
 タイトル。素敵。ぎゅっと凝縮されている。「思っている」に切り替わった瞬間に美しい人になれたんだよね。

19 240~241頁(対談)
 最後の最後に泣きそうになった。沁みた。


西加奈子「うつくしい人」(株式会社幻冬舎、2011年)
表紙画像↓