恋に落ちたほうが、いいかしら
最近、恋愛について考える機会が増えた。
それは、カウンセリングに来て下さる方、ご相談メッセージを送ってきてくださる方が、恋愛に悩んでいることが多いから。
今、自分に来ている相談は、自分自身にとってもタイミングの良い相談内容だ。とカウンセリングの師匠や先輩から聞いたことがある。
ご相談の内容が続くときは、続くもので。いっきに「恋愛」に傾いた。これまでは、生きづらさや復職についてのご相談が多かったのに、なにがおきたのか。
恋愛について考えることを、わたしは苦手としている。恋愛感情を思い出しづらいほど、苦手だ。
それでも、ご相談いただくからには、何か。わたしなりに考えを整理しておきたい。
困った時の、先輩頼み。
ということで、恋愛やセックスレス・夫婦関係についての相談を得意とする先輩に、はなしをしてみた。
「苦手と思っていた恋愛ジャンルの相談が、
最近、続いているんです。
どう向き合えばいいでしょう。迷ってるんです。
先輩なら、どうします?」
とたずねたら、ふふんと笑われた。
「だって、たまこちゃん、もうどうするのか知ってるでしょう。
どうやりたいか、なんて決めてるじゃない。
そのまま、答えていいんじゃない?」
……今のわたしができることしか、できないから。
恋愛のご相談も、他の相談と同じく、ていねいに聞き取るしかない。
せいっぱい、聴こう。聴くしかできないのだから。
確かに、そう決めている。だったら、そうしかできない。とりあえず、それでいいのか。
「あ、相談ごとのお返事にリアリティが欲しいって、
たまこちゃんは恋愛しに行くでしょう?
相手は、ほんとうに気に入る男にしておきな」
忠告までいただいた。ありがたい限り。
*
それでも、どうにも。納得しかねて、もうひとりの先輩にも相談してみた。
そしたら、そこでも笑われた。
「決めてから、相談するんじゃない。それは、報告」
恋愛についてのおはなしを、わたしがもっと聞きたいと思うから、恋愛の相談が続いているのかもしれない。
もしかしたら、わたしが恋愛したくなっているから、
「たまこ、恋愛、これでもやってみたいの?」と
神様がわたしに聞いているかもしれない。という説を先輩に披露したら、
「もう、面倒なこと、考えるのやめろ」とひとことで、ぶった切られた。
アルコールの入った先輩は、いつもより、よくしゃべる。しかも、容赦がない。
お前は、クマノミだ。
周りの環境をみて、じぶんの性別を決めるくらいに
恋愛も主体的につかめ。
相談ごとが続くからとか、
恋愛のことは苦手だからとか。
言い訳やめろ。
クマノミらしく、さっさと自分の恋愛に落ちてしまえ。
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よくわからない間に、なんとなく先輩たちの話に納得させられてしまった。
先輩たちから見たら、わたしはなにかに恋をしている。恋をしたいと思っている。
けれど、その気持ちをわたし自身が認めようとしないから、恋愛の相談が続いて持ち込まれている。と見たのか。
さて。
恋愛に憧れはあるけれど、わたしは誰に何に恋をしているのだろう。まだ、自覚はない。
帰り道、電車の中でうだうだと考えていたら、頭の中が水族館になった。
クマノミがつんつんと泳ぐ奥で、ピラニアがざぶざぶと暴れている水槽がみえた気がした。
わたし、ピラニアにかじられるような、心しぼられる恋愛は、今さら、しんどいな。クマノミにだったら、なれるんだろうか。
そして、気になるクマノミ。
クマノミは「ニモ」で有名になった、オレンジ色と黒のしましまの魚。メスの群れで、オスは1匹。そのオスがいなくなった時、メスたちのなかで一番体の大きな個体が、次のオスになるという。性別を変えるのだ。
オスになると決め、オスに変化してメスと恋をする。
わたしが恋をしようと決めたら、誰かと恋に落ちるのだろうか。
今のわたしは、わからないけれど。恋に落ちる機会があったら、落ちてみよう。
落ちてみたら、より深く。より身近に。
おはなししにきてくれた相談者さんのいうことが、感じられるかもしれない。
それでも、恋を「孤悲(こい)」にはしないでおこう。
(万葉仮名では恋を「孤悲」と表記したという)
ひとり悲しく恋を思うのではなく、カウンセラーな先輩さんたちや友人たちとも話していこう。
……あら?
恋に落ちる気、まんまんね。誰に恋するつもりなんだろ。
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本文上の写真は、三浦えりさんの作品。このフォトギャラリーに収められた写真の温度に、なんだかきゅっとくる。
ほっと目にとまる花のいろ。空気のまろさ。見せてくださり、ありがとうございました。