まだまだ、恋愛について考える、春の夜
わたしが「恋愛」ジャンルのご相談に、気の利いた回答ができないとお客さまが気づいたようだ。あれほど、立て続いていた「恋愛」のお悩み相談はぱたりと終わった(不倫や結婚パートナーとの関係改善について、ご相談は続いているけれど)。
わたしの「恋したい」気持ちも、だいぶん落ち着いてきた。
それでも、春だから。
恋について、考えてみようか。
▼恋愛を目撃しながら、呑んでいた夜のおはなし
その翌日。
睡眠不足のままに目覚めた、朝。
ふと思い出した和歌がある。
枕だに知らねばいはじ 見しままに 君かたるなよ 春の夜のゆめ
現代語訳:
ふたりの夜を見ているはずの枕でさえ、ふたりのことを知らないのだから、わたしもふたりのことを口にしないわ。
だから、あなたも。ふたりで過ごした、はかなくて短い春の夜の夢のような、あの夜のことを誰にも言わないで。内緒にしてね。
……とでも、いう意味だろうか。
「古今和歌集」恋三に収められている、和泉式部の詠んだ和歌。
和泉式部がいたころは、当然、電気のようにまっさらな明るさはない。あかりがあったとしても暗めで、現代の人がみるならば、ほとんど真っ暗な夜になるのではないだろうか。
そんな暗い夜を、ぐっと近い距離で過ごしたふたりの時間は、かなり濃いものであったかと。そのときのことを、内緒にしてねとおねがいしている和泉式部。
この気持ちを思うと、きゅうっと心つかまれた。かわいらしすぎる。
中学生の頃のわたしは、すごく、どきどきしながら、繰り返して読んだ。
こんな「春の夜」を、大人になったら過ごしてみたいと思った。
そして、大人になって。今、あらためて読んで。やっぱり、どきどきする(中学生の頃とは、違った意味で)。
たぶん、和泉式部のこの恋は、人に知られてはならなかったんだ。
こっそりと秘めた恋。だから、内緒にしなければ。
けれど、誰かに話したい。
でも、秘密にしておかねばならない。
話したい/でも、話せない。
境目にあって、恋心も際立つ。相手への思いも募る。
恋は、周りに隠し、ふたりだけの秘密にすることで、相手にむかう慕わしさとふたりで過ごすときの輝きが増す。
わたしが春の夜を、和泉式部の和歌のように振り返りたいなら、秘密の恋をするしかない。
不倫や結婚パートナーとの関係改善について、ご相談をうけながら、しばらくは、あの和歌を思い出すことになりそうだ。
けれど、自分が「春の夜のゆめ」を体験するのは、まだ遠そう。来世あたりかなあ。
▼ 恋愛にあこがれている。けれど遠い。