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女優! キャシー・ベイツ

先日、シェリー・デュヴァルの訃報にふれデュヴァルの記事をアップしました。
今回は、“キング原作ホラー映画3大ヒロイン”つながりということで「ミザリー」のキャシー・ベイツについて。

紹介するまでもなく、「ミザリー」はホラー映画が苦手という人にも広く勧めたい、「幽霊より何より、一番怖いのは人なのよ」を骨の髄まで感じさせてくれる名作です。

物語は、作家ポール・シェルダンが、人気小説ミザリーシリーズの最終作を郵便局に出しに行く道すがら、大雪のため瀕死の事故に遭ってしまうところから始まります。
目覚めると、そこは見知らぬ家の一室。家の主は、彼の熱狂的ファン、元看護師であるというアニー・ウィルクスという中年女性。大雪の日、事故に遭った彼を奇跡席に発見し、看病してくれたと聞かされ感謝したのも束の間、アニーは、看病といいつつ自分を軟禁して離してくれなくなる。“親切な女性”の仮面が剥がれ落ちていくにつれ、彼女の精神は狂気を帯びてきて……というお話。

作家役は、「ゴッド・ファーザー」の長男坊役で知られるジェームズ・カーン、エージェント役には、ハリウッドの伝説的女優ローレン・バコールとキャスティングも豪華なのだけれど、この映画を成功に導いたのは、何をおいてもアニー・ウィルクスを演じたベイツの怪演に他ならないと思うのです。

命を失っていたかもしれないのに、幸運にもいい人に助けられた。そう信じていた作家の心に次第、疑いが生じてくるんですよね。
アニーの精神状態に転調の兆しが現れる長雨のシーンは見事です。朗らかで明るくて、家庭的といったそれまでのイメージが反転し、世界が一気に不穏な空気に包まれていくんです。
怖いよ、アニー!

ただ、この映画のアニーは、怖いだけのモンスターではないような気がするのです。見終わってなぜだか憐憫の情が湧いてくるのです。そんな気持ちになるのは、アニーを美しくない太った中年女性に設定しているからかもしれません。人気作家と美しくない中年女性って、かなり切ない設定です。
この、人気作家と、美しくない中年女性の構図、既視感があるなと思っていたら思い出しました。

「うちのカミさんが」の、刑事コロンボ「構想の死角」です。

相棒作家からコンビ解消を言い渡された作家が、相棒を別荘に連れ出し殺害するエピソード。小説を書いているのは相棒で、本人は、甘いマスクと軽妙な語り口が魅力なだけの、マスコミ担当の“書けない作家”という設定です。コンビ解消したら作家生命は絶たれたも同然なわけで、遊びのために湯水のように使ったお金も返せないということで殺人を犯すわけです。ところが、彼の大ファンである、食料品店を営む未亡人が真相を知ったことで人気作家は第二の殺人に、手を染めるのです。

この未亡人が、ブロンド美女をはべらせている人気作家には似つかわしくない、出歯の中年女性なのです。
口止め料を受け取る際、未亡人は作家を自宅に招いて夕飯をご馳走します。まるで「ミザリー」で、アニーが缶詰の成形肉のディナーでポールをもてなしたように。

未亡人の質素な手料理にお世辞を言った作家は、プレイボーイよろしくイチゴを未亡人に食べさせ、あまつさえキスまでやってのける! 
この日のため精一杯おしゃれしたであろう、赤に白のポルカドットのワンピース姿で彼女は撲殺されてしまうのです。派手なワンピース、大振りのイヤリング、イチゴを食べさせてもらったときの彼女の嬉しそうな顔、すべてが滑稽で哀れなのです。子どもながらに思ったのです。この人が綺麗だったら、話は違っていたのに、と。
外見的美しさは、女が憧れの世界に入っていくわかりやすいパスポートになり得る。けれど、それを持たざる者は、秀でた知性や運動能力などを持っていない限り、憧れの世界へのパスポートを手にすることなどできやしないという哀しい現実。

話を「ミザリー」に戻しましょう。
アニーが若くて綺麗な女性だったら、顛末はどうなっていたでしょう。
ポールを軟禁することもなく、楽々と、彼が暮らす華やかな世界へ入っていけたのではないかしらん、と夢想するのはわたしの好きにさせていただきたい。しかしながら、スクリーンのアニーは髪を引きちぎられ、豚の貯金箱で頭を殴られてしまうわけですが。
哀れなるアニー!

最後に、“キング原作ホラー映画3大ヒロイン”、残る一人は、26歳のときに、いじめられっ子の女子高生キャリーを演じたシシー・スペイセクでございます。


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