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君たちは、井上尚弥に勝てるか。


2023年、7月25日。僕は夕方から家で、ボクシングを見ていた。そして午後9時過ぎ、井上尚弥vsステフェン・フルトンの試合が始まった。またしても井上はやってくれた。Ⅼ字ガードのままフルトンと打ち合い、中盤、やや大振りなパンチを繰り出す井上にフルトンがアジャストしてきたか、これは試合の行方が分からなくなってきたぞ、と思った8R。いきなり試合は終わった。
 僕はこの試合を見終わり、ライブ配信を消した後、ふいに、自分の人生がとてもしょーもないものに見えてきた。youtubeを見る行為、単位のために興味ない内容の課題とテスト勉強をする行為、友達とお互いの未来を語る行為、、、それら全てが意味がない行為に思え、たまらず家を出た。その日の夜ご飯は白米とレタスと国産鶏むね肉だったが、夜食として、堅あげポテトと冷凍チャーハンを追加で食した。

おれを夜食へと駆り立てた左フック


 僕は試合を見るのが好きだ。ボクシングだけではなく、テニスも、卓球も、スマブラも。1対1。この構図が大好きなのだ。試合は、映画ではない。物語ではない。映画は、必ずドラマチックになるように作られる。作る人、出演する人、関わる人が、見た人を感動させたり、衝撃を与えたりするために作られるのだ。しかし、試合は、両者が自分の相手を下して勝利を獲得しようとするものだ。最初から脚本が決まっている試合はプロレスぐらいのもので、後は次の展開は何一つとして決まってない。神のみぞ知るという言葉もあるけど、実際はその時の一瞬が次の一瞬を作り、そして作られた一瞬がまた次の一瞬を作り出すため、神でさえ次の一瞬さえ知らない。そのスリル。そして昨日の試合は、何一つとして嘘のない「井上尚弥という一人の人間」を見ることができた試合だった。
 嘘ばっかである。この世界というのは。この前、フランスで武尊の試合があった。去年那須川天心と、6万人の東京ドームで試合をした武尊である。あの那須川天心との試合というのも、リングの上以外では嘘ばかりであった。あの試合は、大衆はどちらかというと武尊の味方であった。武尊に勝ってほしいという声の方が多かったと思う。プロの格闘家たちも、次第に武尊が勝つのではないかという意見が多くなっていた。プロでさえも世論に押されてきていた証拠だ。というのも、那須川は武尊との試合の2か月前にも試合を行い、そこでパフォーマンスが非常に悪かったことを考慮しての意見変えだから、一応理には適っている。そして「試合当日、那須川は武尊からダウンを奪って判定勝ち」した。あのリングの上で、武尊のグローブが天心の顔に触れることはほぼなかった。いや、一度もなかったんじゃないかな?結果は天心の圧勝。少なくともあの日のリング上では、ずっと謳われていたキックボクシング界の「最強vs最強」ではなく、「天心vs武尊」だった。武尊は、さすがにあの日のパフォーマンスで「最強」は名乗れないだろう。ずっとk1が最強最強持ち上げてた野杁正明も敗北した。試合の場で、自分をごまかすことは出来ないのだ。
 ここまでの流れで、分かる人には分かるだろう。以下の2枚の画像を見てほしい。この前の武尊の相手に関する画像だ。

このサグテンという選手、間違っても「欧州最強」などではない。この動画を出してるのは、ABEMAの公式格闘技アカウントだ。ABEMAでさえ、これらのクソコラとしか思えない画像をサムネにして武尊の試合を少しでも話題にしようとしている。そう、この世界ではみんな、嘘を巧みに用いてお金を得たり、承認欲求を満たそうとしている。Instagramer, YouTuberとか、エンタメ業界の人たちは、特にそうだろう。嘘が悪いわけではないが、嘘に踊らされると損するよ。そして、嘘に騙されるというのはとても楽なことだ。自分で確実な情報を吟味して、その情報を疑いながら読み取ることより、キャッチフレーズとか印象的な一言を信じ切ってしまったほうが楽だ。考える必要がないから。時間もかからないし、それでうまくいったなら、費用対効果めっちゃいい。嘘というのは、今の情報化社会には切っても切りきれない存在なのだ。

推しの子もアニメ化される前は、Twitterの広告のコメント欄でも駄作とか流行るわけないとか言われてたなあ


 話は最初に戻り、井上vsフルトン。井上のジャブに、嘘はあったか。フルトンのガッツに、嘘はあったか。ない。二人がリング上で見せた行為に、嘘はなかった。町のヤンキーボコった動画出して最強ビジネスやってた総合格闘家は、柔術のスペシャリストに極められ、失神した。試合の場で出せる動きや強さは、ごまかせない。判定決着はよく分からん時も多々あるけどね。僕は昨日、井上尚弥のあのL字ガードに、あのボディーからの右ストレートに、打ちのめされたのだ。井上尚弥という存在そのものが、僕という1人の人間を大きく揺り動かしてきたのだ。嘘偽りない、その圧倒的な実力によって。


 井上尚弥の試合を、リアルタイムで見たのは、1年前のドネア2から、3回連続で3回目。ドネア2も衝撃だった。大学の、まだ仲良くなったばかりの友達と見たんだけど、友達が格闘技あんま面白くないねって思われたらどうしよってちょっと怖かったんだけど、面白い面白くないとか関係なく、ただただ井上尚弥が強すぎた。井上も、キャリア序盤は、今よりも階級が下で、余りに減量がきつく、当日の試合でも自分のベストが出せない試合が多々あったそうだ。今でこそ1年でスーパーバンタム級4団体制覇とか言ってるけど。多分、自分に納得がいかずに、悔しい思いをしていたはずだ。井上尚弥も大谷翔平も、プロになってから10年ぐらいたって、ようやくここ3年ぐらい自分の名がその競技界で絶対的なものになった。それまでは大谷も二刀流で大成してなかったし、元プロのじいちゃんも街のおっさんも二刀流は無謀って言ってたよね。 
 自分いつも思うんだけど、一番強いやつが一番努力してるに決まってるから。同じ業界の人でも、引いちゃうぐらいの努力をずっと続けてるから、その競技でトップになれんのよ。才能じゃない。るふらんの定理42「センスやばいっ、神童だ天才だって騒がれてるやつ、ただ死ぬほど練習してるだけ、お父さんの熱血指導とかで」。そーでしょ。そうじゃなかったことある?練習してないけど金メダル取れましたってやつ見たことないんだけど。「努力できるのも才能」なわけねーだろ。
格闘技の試合前会見とかで、いい作品を作れるようにっていう人嫌い。試合は作品じゃないだろ。このセルフブランディングの時代に、ただただ試合の内容で物を語る井上尚弥すこ。
私は運命と生まれ持っての才能を認めない人間です。


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