六月の鳩 しんくわ(2018)
どうやら僕の住んでるアパートの部屋の窓の外の金木犀の枝の中に鳩が巣を作っているらしくて、部屋の中にいると低い鳩の鳴き声がする。さっきバサバサッと羽ばたかせるような音も聞こえた。僕が(いるな)と思うと同時に、窓の向こうの鳩も建物の中にいる僕に気づいているはずである。なぜならば、人間である僕のほうが、身体も大きくて、足音や、くしゃみやイビキとか、鳩よりも大きな音をたてているからだ。たぶん卵を抱いている鳩にとって、僕の存在は壁の向こうに確実に存在している巨人かなにかのようなものだ