旅する土鍋「新作と洞窟の町」
残念ながらというのか、生真面目な性格と効率的な計画性を持ち合わせていない。困りものであり、功を奏しているともいえるだろう。展覧会のたびごとに、あたらしいもの、見たことのないものをつくりだすわけだが、ここに計画性は通用しない。アイディアを探しにいくぞ!といって生まれるものでもない。経験や感情の「ストック」が一定量からあふれたとき、そこにこぼれるものであり、「こぼす」という抜け具合が必要なのだ。
新作ピッチャー「石の町」
長年つづけている「まちシリーズ」に、新アイテムであるピッチャーが登場。どっしりとしたつくりなので、花をかざっても安定する。耐熱性なので、定番のポット同様、直火にかけることができるし、口径は既存のコーヒードリッパーに適応。鍋料理のときの差し水にも使えるだろう。
今回は「まちシリーズ」がはじまったきかっけと、今回の新アイテムに思いを馳せたある町を紹介したい。
ルッカという町
ジャグの絵にもある建物から伸びる木、これは先日も少し説明した空(未来)に伸びる根っこ(⇒「秋ごぼうと鶏ごはん」参照)であり、トスカーナの中世の町ルッカの記憶。90年代のはじめ、最初に訪ねたとき、建物の屋上からジャックと豆の木のようにそびえたっていた木が忘れられず、以降、その絵を描き続けている。
マテーラという岩洞窟の町
この夏は、カラブリアから足を延ばして、イタリア人の友人と、バジリカータ州にあるマテーラという町を訪ねた。住居や教会、道や壁、すべて町がまるごと岩のかたまりから掘られてできている洞窟の町。石器時代から人が住むために掘られ、8世紀ころからは修道士(隠修士)がここで孤独な生活をおくっていた。後世は農民が家畜などと住んでいたが、やがて貧民が住むスラム街に変貌。1958年、政府は強制的に町を廃墟にしたという。(歴史地区ガイド:アンドレア談)
上の写真は農民の暮らしを再現したもの。テーブル右奥にはピッチャーも見える。汲んできた水を食卓に出すのに欠かせないアイテムだったのだろう。
1993年、洞窟住居がユネスコ世界遺産に登録され、一気にマテーラの町は息を吹き返す。下の写真は映画「パッション」のポスター。エルサレムの丘をのぼるキリストのシーンはマテーラで撮影された。
教会も洞窟の中にある。
洞窟は夏すずしく冬あたたかいというものの、窓もなく多湿な空間は、空調もない時代は大変なものであっただろうとアンドレアも言っていた。(※岩には貝殻が埋まっていたりするので古くは海中だった説もあり) 現在は、この遺産である洞窟住居が売りに出されており、芸術家などにも人気で、現代的な暮らしを取り入れた生活者が増えているそうだ。
このように旅の記憶はどこかにストックされ、ふとした瞬間にこぼれおち、線となるのだ。それは、期待するものではなく。
INFORMATION
我妻珠美 陶展 -秋を炊く-
Tamami Azuma
Ceramic Art Exhibition
Ecru+HM(Ginza Tokyo)
2018年11月16日~24日
※21日休廊
12:30-19:00 (Last day 17:00)
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F
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