_プレゼンテーション1

カメラはカメラでない話

*Conote MAG 006号「カメラ!カメラ!カメラ!」寄稿! *

だいじな時をフィルム時代に生きたからこそ、デジタルカメラには「割り切れる」という感があります。便利なデジカメを前に斜に構えているのではありません。記録も仕事のうちである陶の仕事はデジカメに大いに助けられているのですから。今日も撮影三昧だったわけだし。

デジカメのおかげで「カメラ」という言葉を、2つの意味で考えるようになったという話です。

(写真:90年代イタリア修行生活より)


瞬間を選りすぐる

作品はもちろん、我が子の思い出も途中までは、デジカメが登場してもオールフィルムカメラで残しました。フィルムカメラは “切り取った瞬間をいちど箱に入れフィルターかけて出す”という感覚。待ってくれない瞬間はラクガキしました。

(ラクガキ:はじめてのギターと少年)


話はさかのぼり、90年代イタリア修業時代。もちろんデジカメはなくフィルム一眼レフのみ。フィルムを日本で買い溜めして感光防止袋に入れて飛行機に乗る。この時点で撮れる枚数は決まるのです。

ビンボー修業時代。生活を切り詰め高い現像代を捻出するからこそ、「選りすぐった瞬間」を「ある箱(部屋)」に入れていました。

(1996.3.25(月)ミラノ修行日記より)

生活の記録はラクガキ日記でした。貴重なフィルム残数を数えながら今のように気楽に食事なんて撮れなかったなぁ、残念。

〈写真を現像に出しに行く1時間のところ〉とあり、その右に店の名前〈FOTORAPIDA〉(スピード写真)と住所と〈110,000Lit(リラ)〉と書いてある。 何枚撮りフィルムでこの価格だったのかな。どのみち1万円くらいの痛い出費だったと思われ。上のメモ書きに大きな丸パンひとつが2,200リラ(200円くらい)とあるのもおもしろい比較!今なら容易にググれる下調べメモ的な記録。

現代のブログに比べたら、写真もなく情報少ないけれど、不思議なことに、まとまりのないページを見るだけで、春の香りやあの時の空腹を思い出すことができるのです。

(写真:90年代イタリア修行生活より)

天井フレスコ画をぐるり一周撮影し、プリントした写真を何枚もつなげて日本に納品するバイト中。ダンスじゃないよ背中でくるくる回って移動してるヘンな女子


「カメラ=部屋」

イタリア語(ラテン語由来)
CAMERAは「部屋」。
「写真機」という意はない。

イタリア語で「カメラ持ってる?」と聞けば部屋ある?という意味に。つまり「カメラ」は写真機でないのです。

ピンホールカメラの仕組みを想像してみてください。
シーンを写すには穴のあいた「箱 (暗室)」と光が要る。この仕組みから「カメラ」という英語が生まれたようですが、本来の「カメラ」は「写真機」という意味ではないのです。⇒ピンホールカメラ(ウィキペディア参照)

切り取った瞬間は「カメラ」という暗黒の「部屋」のなかに。そしてフィルムカメラは「記憶=思い出」という像を壁(フィルム)にうつして回想していたわけです。

対してデジカメは、壁がないオープンルームというイメージ。記憶は電気信号に変換され、目には見えないデジタルデータとなる。だからデジカメに「割り切る」という言葉を使ったのかもしれません。こうやってデジタルレボリューションを「割り切る」のも悪くないかなと。


「カメラ(部屋)の光と影」

(写真:たまごライト作品 コッチョリーノ)
 撮影:PAOLO モデル:失念

最後に、イタリア人プロカメラマンの提案でコッチョリーノ作品をアーティスティックに撮ってもらった1枚。

プロもまだフィルムカメラの時代。あのときの瞬間という部屋、そして光と影が写っている。目に見えないデータや、「カメラ」という部屋の壁にうつされた記憶(ネガフィルム)も手元にはありません。カメラマンのパオロからもらった印画紙に焼きつけたこの1枚の記憶が全てなのです。

ミラノやパリのコレクションで活躍するモデルさんに、修業時代ミラノでつくっていたオブジェを持ってもらいました。コッチョリーノ元祖ランプ作品。モデルさんにクレイボディペインティングを施し、ひび割れた肌に大きなコッチョリーノの陶アクセサリーを着けてもらった作品もあるのだけれど、美しすぎるモデルさんのヌード写真なので非公開。この1枚に留めておきますね。あしからず!?


*Conote MAG 006号「カメラ!カメラ!カメラ!」寄稿記事 *


(後記)いま窯から作品を出して汗だくで息切れしています。失敗もありました。喜怒哀楽がつきまとうこのシゴト。デジタルレボリューションを起こした世界のなかで汗だくな職人業はあいかわらずです。本日個展の搬入のためバタバタしているので真夜中の投稿お許しを!

(Cocciorino コッチョリーノ地球のかけら)


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