点火のサルマ 第1話
■あらすじ《298字》
■第1話〜第3話のテーマ
■タイトルについて
点火(トボシ)と読みます。
■第1話のシナリオ
①人体改造室
サルマ「はぁ……はぁ……」
全身を炎に包まれている青年が、燃えている自分の両手を見つめている。
サルマ「火が消えない……!どんどん広がっていく……!」
燃えている青年サルマを見て、白衣を着た人間の少女と、ヒツジと人間のハーフのような男が怯えている。
サルマの火は足元に流れている薬品に引火し、彼らのいる研究所のような建物の壁にまで燃え移っている。建物が崩壊するのは時間の問題だろう。
サルマ「何で……どうして、こんなことに……」
遡ること1週間前のこと……
② 8/31 青桐理髪店
都会から電車で2時間ほど離れた地域に、小さな町がある。そんな町にある青桐理髪店の前で、青い髪が特徴的な青年、サルマが掃除をしている。朝から働く彼に、中年男性の遠山が声をかけた。
遠山「朝から店の手伝いか、偉いなぁサルマ!」
サルマ「あー!お久しぶりです!」
サルマは店の外から店長の父親を呼ぶ。
サルマ「親父!お客さん来た!」
セイジ「おう!すぐに準備する!」
遠山「いいよいいよ、ゆっくりで」
サルマは店の前で遠山と世間話をする。
遠山「にしても、デッカくなったなぁ!今何歳だ?」
サルマ「18!」
遠山「じゃあ受験生ってことか!受験勉強やってるか?」
受験の話を振られたサルマは気まずそうな顔をした。
サルマ「……あぁ、受験勉強、頑張ってるよ」
遠山「怪しいな……さては彼女とのデートで勉強サボってるな?」
サルマ「違ぇし!夏休み前にフラれたんだから傷口抉るなよ」
意外な答えに遠山はキョトンとした顔で尋ねる。
遠山「色男のお前が何でフラれんだ?」
サルマ「……金だよ。俺とのデートじゃ友達に自慢できないって泣かれた……」ため息
遠山「そりゃあ、運が悪かったな……次いけ次!」
背中を叩かれて励まされるサルマの背後に、店内の準備を終えた父親がやってきた。
セイジ「遠山さん!準備できたんでどうぞ!……サルマは何を励まされてんだ?」
サルマ「な〜んでも」
セイジ「そーかい、よく聞こえなかったが、次いけ次!」
ガハハと笑いながら息子の背中を叩くセイジと、苦笑するサルマ。仲睦まじい親子を見た遠山は、2人の共通点をぼんやりと考えた。
遠山「(つくづく女運無いよなぁ……この親子)」
③16年前 青桐理髪店
町民たち「奥さんが蒸発した!?」
2歳のサルマと手を繋ぎ、泣いているセイジ。町の人々は彼に容赦なく質問を投げかける。
高齢男性「何で急に!?」
セイジ「分からない……」
中年女性「不倫相手と駆け落ちしたのよ、きっと」
セイジ「そんな人じゃない……」
遠山「サルマはどうする? 1人で育てられるのか?」
セイジ「育てるに決まってる」
セイジは、現状をよく分かっていないサルマを見つめる。
セイジ「アイツが愛したサルマと店のことは、全力で守り切ってみせる。だけど……俺1人じゃ解決できない問題にも、いつかブチ当たると思うんです。ですから……」
セイジは町民の前で跪き、額を地面に付けた。
セイジ「困った時は、どうか力を貸してください。代わりにできることがあれば、何でもします……!」
④ 8/31 青桐理髪店
遠山「(失踪した奥さんとの約束守って、サルマをこんな良い子に育てたんだから、セイジは本当に凄い親父だよなぁ……)」
店の手伝いを終え、リュックを背負って出掛けようとするサルマに、遠山は声をかけた。
遠山「サルマ……親父のこと大事にしろよ?」
サルマ「何だよ急に。言われなくてもそうしてるよ」
遠山「しっかり受験勉強して、いい大学入って、親父さんを安心させろよー!」
サルマ「分かってるって!今からタイガに勉強教えてもらうんだよー!」
恥ずかしくなったサルマは走り去った。理髪店の前でセイジと遠山は話を続ける。
遠山「サルマはどこの大学にいくんだ?」
セイジ「映画制作を学ぶために、映像科のある大学を目指してますよ。最高のSF映画を作るのが、ガキの頃からの夢ですから」
遠山「懐かしいなぁ。ウマの図鑑広げて力いっぱい説明してくれたもんだ」
セイジ「UMAですよ」
遠山「……資金は足りてるか?」
セイジ「……奨学金になるかな」
短い沈黙が流れた後、セイジはしんみりとした表情で話す。
セイジ「転職するなり再婚するなりすりゃあいいのに……アイツがフラッと戻ってくるんじゃないかっていう希望を捨てきれない……駄目な父親ですよ。俺ァ……」
その時、犬の散歩をしているサルマの友人、タイガが店の前を通りかかった。
タイガ「お、サルマの親父さんちーっす!」
セイジ「よぅタイガ。サルマなら今、お前ん家に向かったぜ。馬鹿だけど根性はあるから、ビシバシ勉強教えてやってくれ」
タイガ「今日は約束してないけど……」
タイガからの返答にセイジは険しい顔をした。
⑤8/31 タイガの家
夜、スーツに身を包んだサルマが、タイガの家に向かっていた。
タイガの家のチャイムを押すと、セイジが出迎えた。予想外の出来事にサルマは驚く。
サルマ「親父!? 何でタイガの家に!?」
セイジ「お前……嘘ついて就活してたのか」
セイジの後ろからタイガがひょっこりと顔を出す。
タイガ「大学に行くよりやりたいことができたって、親父さんからも同意を得たって、そう言ってたから兄貴のスーツ貸したのに!」
サルマ「ごめん……」
セイジ「やりたいことがあるなら別にいいんだよ。で、どこに就職すんだ?」
セイジはサルマから企業のパンフレットを受け取って、中身を見る。
セイジ「製造業……? しかもライン作業ばかりじゃないか。どうした?」
サルマ「え……何か問題でも?」
セイジ「……もちろん、黙々とモノづくりをする仕事だって、世の中に必要な仕事だ。でもお前は違うだろ? 人の才能を見出して、味方に引き入れて、最高のチームを作って、最高のSF映画を作りたいって……去年だって言ってたじゃないか!」
サルマ「そんなことができるのは、ほんの一握りの、選ばれた奴だけだよ。俺じゃない……」
普段と様子の違うサルマを見て、セイジは動揺した。父親を安心させるべく、サルマは自分の就職先候補の企業をアピールする。企業パンフレットを父親から奪って、誇らしげに見せた。
サルマ「それより見ろよ、親父!この大企業と面接進んでるんだぜ!」
セイジ「サルマ……?」
サルマ「これなら将来安泰だろ? 親父は安心して店を続けられる」
セイジ「おいサルマ」
サルマ「俺な、親父に夢を叶えてほしいんだ。だから大学受験は辞めたんだ。金かかるし……」
セイジ「ふざけるな!!」
父親のセイジに胸ぐらを掴まれ、サルマはぎょっとする。
セイジ「親の夢のために自分を夢を捨てるガキがどこにいる!? 俺はお前をそんな腑抜けに育てた覚えはねぇぞ!!」
怒鳴った後、しばしの沈黙が訪れてからセイジはサルマを離した。
セイジ「……怒鳴って悪い。頭冷やしとくから……サルマ、今晩はタイガの家に泊まってくれ。話はしてある」
セイジはサルマのスクールバッグとお泊まりセットを彼に押し付け、ふらふらした足取りでタイガの家を後にした。
タイガ「サルマの親父があんなに怒ってるの、初めて見た……とりま、いつもみたいに布団用意すんね」
サルマ「……ちょっと、散歩してきていい?」べそかいてる
タイガ「おー、行ってこい」
サルマはタイガの家を出て、セイジが向かった方向と、反対の方向へ歩いた。
⑥8/31 夜の公園
近所の公園のブランコに座り、サルマが落ち込んでいる。
スーツにスクールバッグという中途半端な格好のサルマに、アロハシャツにハーフパンツに便所サンダルというこれまた中途半端な格好の男が声をかける。
軽装の男「おーいそこの学生……新社会人? 早く家に帰んな。今夜はUFOが来るぜ」
サルマ「UFO……?」
男はブランコの周りの柵に腰かけ、話を続ける。
軽装の男「8月31日の夜に外出している若者が失踪する事件、知ってる?」
サルマ「あぁ、学校が始まる前に命を絶ってしまう若者が増えてるって、ニュースで見た……」
軽装の男「メディアはそう告げるが、本当は宇宙人の仕業なんだ」
サルマ「はあ……(オカルトマニアか?)」
軽装の男「信じる信じないはどうでもいいけど、早く家に帰んな。それともここで怪しいお兄さんに絡まれ続ける方が好きかい?」
サルマ「……分かったよ。アンタも早く帰れよ?」
ブランコから立ち上がったサルマは公園を出て行こうとする。サルマとすれ違う瞬間に、男はボソリと呟いた。
軽装の男「……俺は攫われたいからいいんだよ」
サルマ「?」
サルマは公園を出ると、重い足取りでタイガの家に向かった。
落ち込むバイト先の店長の姿、呆れる進路指導の教師の姿、涙を流す元カノの姿、そして激怒する父親の姿が、サルマの頭を過ぎる。
サルマ「(まったく、悪いことって……何で立て続けに起こるかな……) 次はUFOに攫われて、人体改造されるとか、そんなんだったりして……」
サルマは立ち止まって深いため息をついた。それから、足元にゆらゆらとした光があることに気づいた。上空から複数人にサーチライトを当てられているようだった。
光の正体が気になったサルマは上空を見た。すると、空には巨大なUFOがあった。 ☆見開きページ
サルマ「え……」
UFOに乗る謎の生き物の緑色の目と、目が合った瞬間、サルマは意識を失った。
⑥UMAたちのアジト
目を覚ましたサルマは、自分が床に座らされていて、さらに手首を木工用ボンドのような塊で固められ拘束されていることに気づいた。また、自分意外に4人の若者がいて、彼らも自分と同じように拘束されていることを知った。
拘束されているのは髪の長い女子高生、痩せこけた男子小学生、癖毛が特徴的なメガネの男、そしてゴスロリの衣装を着た女性だった。
サルマ「(ここは何処だ……?)」
サルマは部屋を見回す。機械だらけの広すぎる部屋に置いてある椅子はどれも大きく、天井は不自然なほど高い。分かるのは、ここが人間のために作られた部屋ではないということだ。
一体ここはどこなのかとサルマが考えていると、背後から機械音がした。それは大きな自動ドアが開いた音で、4メートルほどの不気味な人形のような生き物が部屋に入ってきた。サルマはその姿を見て驚愕する。
サルマ「フラットウッズモンスター!?」
フラットウッズモンスター(以下、司令塔)はサルマを見て、不敵に笑った。
司令塔「今回は我々のことに詳しいH”UMA”Nがいるのですね。面白い」
サルマ「喋った……!?」
司令塔「HUMANと意思疎通するための翻訳機を身につけております。過去にこの星に連れてきた優秀なHUMANが作ったものです」
司令塔は後ろをゆっくりと振り返り、ドアの向こうにいる部下に入ってくるよう声をかけた。部屋にはヒツジと人間を合成したような生物と、小学生くらいの人間の少女が入ってきた。
サルマはヒツジ男を見て驚く。
サルマ「ゴートマン!?」
どしどしと歩くゴートマンを見て、怯えた男子小学生が泣き出した。
男子小学生「食べられちゃう!!嫌だァ!助けてママー!!パパー!!」
少女「……」
ゴートマンの後ろを歩く、白衣を着た長い髪の少女が、男子小学生の言葉に反応して止まった。司令塔は少女に声をかける。
司令塔「25-F、またお仕置きをされたいのですか?」
少女「……」無言で首を横に振る
サルマは脚の力で立ち上がり、男子小学生の前に座る。男子小学生を自分の陰に隠し、司令塔を黙って睨んだ。
司令塔は警戒するサルマを見ながら部屋の中心まで移動すると、鉤爪のついた両腕を広げ、歓迎を示した。
司令塔「ようこそ、選ばれし5人のHUMAN。私たちは貴方たちを心から歓迎します。食べたり襲ったりしません。ご安心ください」
男子小学生「ほ、ほんとう……?」
司令塔「えぇ、本当です。だって私たちは貴方たちに助けてほしいのですから」
女子高生「助けてほしい……?」怪訝な顔
司令塔「この星に住む生き物たちは強いのですが、いかんせん頭が悪い。無計画に増殖し、無計画に資源を消費します。ですから、僅かな資源を求めて争いが絶えないのです。そこで我々は……」
司令塔が天井を指差すと、天井にある機械の窓が自動で開いた。ガラスの天井の向こうに青い星、地球がある。
司令塔「この星と環境が似ている貴方たちの星を奪うことにしました」
5人の人間「!?」
司令塔「地球侵略の準備は、貴方たちの前に連れてきたHUMANたちのおかげで着実に進んでいます。貴方たちにはコンピュータを使って、地球侵略の戦略を立てる手伝いをしてもらいます。若いHUMANは覚えがよく、コンピュータを操作するのが上手いことは知っていますよ」
メガネの男「誰が地球侵略に協力なんてするかよ!俺には……か、家族がいるんだ……」声が途中から小さくなる
ゴスロリ「地球侵略なんてしたらアタシの好きなホストがいなくなっちゃうわ!」
反論する人間に、司令塔はニッコリと微笑んで言う。
司令塔「ならば、侵略した後に、自分の傍に置いておきたいHUMANを保護すればよいのです。私たちにより貢献してくれたHUMANに、より多くの権力を与えます」
サルマ「権力?」
司令塔「侵略後の地球を自由にする権力です」
ゴートマン「自分の家族を傍に置くことができるし、好きなアイドルやホストを独り占めすることだってできるぞ」
ゴートマンの具体的な補足を聞いて、メガネの男とゴスロリは口を閉じた。
サルマ「それがどうした!? 俺たちは協力なんて……」
女子高生「私やる!!」
サルマの反論を、女子高生が遮った。彼女の腕には血の滲んだ包帯が巻かれている。
女子高生「復讐したい相手がいる……もし地球侵略に協力したら、奴らを拷問にかけてもいい?」
司令塔「もちろんです。必要な道具があれば手配しましょう」
女子高生は笑う。サルマはその横顔を見てゾッとした。
男子小学生「僕もやる……!僕をいじめたクラスの子たちをやっつけるんだ!」
メガネの男「そうか……女を捕まえて……そうか……ヒヒ、俺もやる」
ゴスロリ「アタシも!キラビヤ君と結婚できるなら……」
次々とUMA側につく人間たちに、サルマは驚きを隠せない。
サルマ「何でだよ!? 自分の身内以外はどうでもいいってのか!? 復讐なんて物騒なこともやめろよ!?」
ここが、地球だったら支持されたかもしれない。しかしこの場では、サルマを見つめる目は非常に冷たかった。
司令塔「……どういうことでしょう? 捕獲時にスキャンした時は、確かに意気消沈していたのですが……突然変異でしょうか?」
サルマ「……?」
司令塔は鉄のような腕を伸ばすと、サルマの頭部を殴った。
サルマが床に倒れ、彼の頭部から鮮血が床に垂れる。他の人間4人はその光景に恐怖で怯えた。
怯える人間たちを落ち着かせるべく、司令塔はサルマの血液がついた爪を服で拭うと、穏やかに話した。
司令塔「ご安心を。私たちに逆らいさえしなければ、丁重に扱いますよ」
その後、司令塔は少女とゴートマンに指示を出す。
司令塔「25-F、このHUMANはニジェールファイアスピッターの実験に使いなさい。34-B、貴方はその手伝いです」
少女「……」頷く
ゴートマン「承知しました!」
少女は丈の長い白衣を引きずりながら部屋を出た。ゴートマンはサルマの足首を掴むと、引きずって歩き出した。その様子を見て司令塔はひそやかに笑う。
司令塔「口から火を吹く竜のようになるか、全身から火が噴き出す化け物になるか、はたまた薬に耐えられずに燃え尽きて灰になるか……結果が楽しみですね」
頭部の激痛と貧血から意識が遠のいている中、サルマは酷い後悔に悩まされた。
サルマ「(何で……?)」
サルマ「(どうして……?)」
サルマ「(俺が何したっていうんだよ……)」
サルマは、半年前のある冬の日のことを思い出す。
高校から帰ってきたらはサルマは、理髪店で接客している父親の背中を見た。自分のために働く父親の眩しい背中に、サルマは憧れの眼差しを向ける。そして彼は鞄から進路希望先の大学のパンフレットを取り出すと、ゴミ箱へ捨てた。
サルマ「(みんなのために……行動してただけじゃないか……)」
そして最後に、父親に胸ぐらを掴まれ怒鳴られたことを思い出し、意識を失った。
サルマは抵抗できないまま、成人男性が入るサイズのカプセルの中に入れられた。カプセルには人間に読めない文字で、「HUMAN改造実験棟行き」と書かれている……
第2話へ続く
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