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僕を見捨てないで、心がそう言っているように見えた日 【いつか季節が廻ったら #6】

結局、
「あなたの機嫌をとるために研究をしていた」
という言葉の真意はわからないままだった。
私が大泣きした日、
「じゃあ、どうしたいの?」
という私の質問に対しての答えはもらえなかった。

「分かり合えない」
と言われただけだったからだ。言語化してほしいとお願いしたけれど、言語化されることはなかった。

言語化できなかったのか?
言語化できたけれど、言えなかったのか?
自分の意見を言ったら相手に嫌われると思い込んでいたのか。


それでも、何度聞いても
「先生の機嫌を取るために研究をしていた」「人の機嫌を取って生きることに疲れた」という主張が曲がることはなかったように思う。なぜなのか、ずっとわからなかった。

就職先に内定をもらった。修士学位はどうするのか。
選択肢はいくつかある。

まるで大人の反抗期。
機械の使い方を教えている最中にご機嫌斜めになり、
大学院のカリキュラムの一環の中間発表や研究計画書の作成すら
「嫌だ」、「やりたくない」、「こんなのやる必要ない」
 
おおよそ二十歳過ぎの大人が言う言葉ではない。
なぜ私にそんな言葉を投げつけるのか?

「なぜそんな態度なのかわからない。修士学位はどうするの?
就職先は「修士卒見込み」で採用内定出してるよね?
それならば、修士を取るというのは必須だからね。」
 
「これからの方針として・・・いくつか選択肢はあるよ。」
 
「まず、私がうるさくてウザくて、一緒に研究するのが嫌なら、外部の先生にお願いするとか、主査を変更する。
こんな選択肢があるからね。」

「この場合は、時々進捗を教えてほしい。私は主査で、修了させるという責任もあるからね。でも、この選択肢をとっても私はそれを咎めたりしないから、そう思うならそうしてもらってもいいよ。実際、私は修士学生のとき外部の先生にお世話になったからね。」
 
「もしくは、私と研究する。
私と研究を続ける場合の条件は私に対して信頼回復をはかること、その1点だけ。あなたが私に言った言葉の数々は許されるものではないと思う。

一時は「もう無理だな」と思うほどだったから。それは分かってほしいよ。私はあなたの前で泣くぐらいだったんだからね。私はふだんからそんなに泣いたりはしてこなかったのよ。」
 
「・・・だから、もし、私とこれからも研究を続ける選択をするならば、日常の中で「信頼回復」してほしい。今、ごめんなさい、という必要はないよ。それはむしろ、いらないよ。本当にどう考えているかは、相手の態度を見たらわかることだから。態度で見せてほしい。」

静かに言った。

このころ、私の心はボロボロだった。
大切にしてきた心の中の美しいガラスの容器は粉々になったままだった。平気な顔で学校に出勤し、年下彼が時折投げつける言葉を受けては悩み、人知れず泣きながらガラスの容器を修復しようとしていた。

私は、人よりも気が長い。本当に長すぎるぐらい長い。
学会参加をキャンセルされ、研究計画書の提出でひと悶着あってもそれでも年下彼を見捨てられなかったのだ。

おおよそ、他人に言うのではないような暴言をまき散らされて、悩みぬいてもなお、年下彼がそう発言した先にある「何か」を知りたかった。
ずっと誰にも相談しなかった。

誰かに相談したら、呆れ果てられるに決まっている。
そんなことを言う年下彼のことも、そして、それをずっと相手にしている私のことも、だ。
 
「そんなやつ、放っておいたらいい。」

そういう答えしか返ってこないだろう。

公開しているがフォロワーのいない自分のXに時々心境を吐露し、なぜ、こんなに心をかき乱すことを言うのかを、他人のXのつぶやきから見つけようとしていた。
いくら探しても答えは分からなかった。


「私はいろいろ考えて、もうだめかもしれない、と思った。これは正直なところ。だから、あなたがもう一度一緒に研究したいと言っても、その時になんて自分があなたに何と言うのだろうかと、ずっと思ってきた。」

そう思いながら今日を迎えたのだった。

「もういちどやるなら、信頼回復だけはしてちょうだい。普段の態度を見ていたらわかるから。」

長い沈黙だった。

「わかりました。」
選んだ選択は、私と研究する、だった。

年下彼の発言に、私は大泣きし、時に怒り、関係はぎくしゃくした。それでも年下彼は私を選んだのだった。
 
「分かり合えない」
 
ぎくしゃくする中、彼の行動は
「僕のこと見捨てないで!」と、そう叫んでるようでもあった。


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