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私は私で歩んでゆく【いつか季節が廻ったら #20】

木枯らしが吹き、秋が去っていこうとしている日、思い立って、少し遠出して無垢材の家具を扱うお店に遊びに行った。カフェが併設されており、コーヒーとシフォンケーキが食べられる。

カフェの奥は展示場になっていた。木材から抽出したアロマオイルが売っていた。同じスギでも葉など先端部から抽出したオイルと中心部から抽出したオイルでは香りが違った。
 
静かに香りを楽しんだ。
 
平日午後、木漏れ日の漏れるカフェ。客はいなかった。素敵な机と椅子に腰かけ、ハンドドリップで淹れたコーヒーと、坊ちゃんカボチャ味のシフォンケーキを注文した。
静かにパソコンを開いて、滞りがちだったデータ整理を進めた。

 
ずっとほしかった無垢材の小さな棚を買った。

10年ほど前、どんな場所に移動しても、これから先どんな職に就いても、きっと本を読んだり作業したりすることは止めないだろう。そう思った。自分の機嫌がよくなる場所が欲しくなり、今回遊びに行った家具屋さんが作った無垢材のデスクを買った。私の引っ越しの旅にずっと付き合ってくれている大事なデスクだ。

そして今でも、このデスクが大活躍する仕事を続けている。論文執筆したり本を読んだり、我が家の中で一番長時間私がいる場所だ。
 
このデスクに合う小さな棚を見つけた。車に載せて連れて帰り我が家に迎え入れた。

人は思い通りには動かない。そして
人が何を考えているかは、結局のところ理解できないのかもしれない。

私は少なくとも二十歳をすぎるまで、それぞれの場所で居心地がよくない経験をしてきた自覚がある。
それでも、いろんな人に出会って、自分らしさが少しずつ芽生えて、手に入れたいま場所。

桜が咲くころ、約半分の年の年下彼に
「あなたの機嫌を取りたくない」という言葉を投げつけられて悩んだ。そして、なんだか理解できないまま、彼は去っていった。

私には到底理解できない何かを抱えていたのかもしれない。
今はもう、手放すしかない。

「修了式、修了証書をもって一緒に写真撮ろう」
こんな些細とも思える約束も、私たちは果たせなかった。


今の私にできること、
これからも自分色をふかめながら、おもしろい研究をしつづけること。

そして、つぎから次へと配属になる学生、それぞれにむきあいながら、私は私で歩むこと。


いつか季節が廻 (めぐ) ったら。
日だまりの中、今回のことを年下彼と話せるときが来るのだろうか。 


(おしまい)


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