退学ではなく休学はどうかな。 【いつか季節が廻ったら #12】
修士修了の要件は、所定の年限在籍し単位を取得すること、そして修士論文審査を受けてパスすること。
修士課程に入ると学生はいくつかの座学の授業を履修することになる。
私が修士の学生だった大学では開講科目が隔年だった。そのために、学部生がやりがちな、「早めに全部座学の単位を履修してしまおう」作戦を取ることができなかった。
一方、ここの大学では、毎年授業が開講されるので、1年次に詰め込んで「修士論文」以外の単位を取得することができる。
そのため、修士1年のうちに授業を取ってしまおうと企む学生が多く、1年次はかなり忙しい、そんな状況になる。
幸いにも年下彼はいわゆる座学授業はすべて履修していたのだ。
履修はすんなりいったわけではなく、
「なぜ研究したいのに、こんなに授業を取らなければならないんですか?」
と、ぼやいてはいた。
「いやいや、修士の学位を取るためには、単位履修も必須なのだから、それはどうしようもないよ。」
修士1年生のころ、こんな会話が繰り返されていた。
「研究だって学生から見れば、ビーカーもマイクロピペットも、キムワイプ (研究用のちり紙)、 試薬も準備されてる、って見えるかもしれない。でもそれを一つ一つ揃えるのは研究室を主宰している人の仕事だよ。カタログを見て、材質を見て・・・って一つ一つやってるんだよ。
試薬だって、分析項目に合わせて適切なものを選んでる。
調査だって、ホテルや飛行機の予約、現地でお手伝いしてくれる人との打ち合わせ、調査用具を忘れないように準備すること、そんなことばっかりしているよ。
それがそろってようやく調査や実験室内での作業がスムーズにいくのだから、そんなもんだよ。
こまかなところは、今のところは学生からは見えないと思うけれど・・・。」
「こういう作業をして、分析してデータになる。そのデータをまとめて学会発表したり、学術雑誌に投稿して採択(アクセプト)されるまで、すべてが研究なんだから。」
そんな話をしていた。
とはいえ、座学授業は履修済みである。そうなれば、「あとは修士論文の審査を受ける」だけである。
しかし正直、今の状態で数か月後の「所定の年限」での学位審査は少し厳しい。
企業が「修士修了見込み」で採用活動はしているけれど、「学士学位」でいいと言ってくれたら、春まで学校にきて、春から予定通り就職するのがいいと思う。
就職したらしばらくは忙しいだろうから、大学は休学する。その間もなんとか頑張って修士論文を書き上げる。修士論文が完成したら、半期に1回の学位審査に間に合うように復学して審査を受けて、修士 (工学) の学位を取得する。
そんなことも可能なのだ。
過去、このようにして修士学位を取得し、その後は企業も「修士卒」として待遇面を見てくれた例を見たことがある。
2年間休学は可能だ。
今はもう無理だと思っても、心が移ろって「やっぱり、学位を取ろう」そう思えたときに再スタートすることだってできる。
仕事が楽しくなってもう「修士学位はいらない」と思ったなら、それはそれだ。
就職してしまうと、「決まった収入がある」状態から、アカデミックに戻るのはなかなか勇気もいる。仕事の上で修士号がやっぱりほしいと思ったら?
働きながらまたイチから座学の授業の単位を取得し、修士論文を書く、そんなのは現実的ではない。
数年働いて、素敵なパートナーと出会ったら?、自分の思う通りにはなかなか動けないだろう。
でも、今この時点で、これまでやってきたことを「退学届け」という形で、バッサリと切ってしまう必要はない。「休学届け」、その紙ぺら 1枚であと2年猶予が持てるのだから。
一方で、退学届けが出されたころ、私は一つの結論にたどりつきつつあった。
それは年下彼が、アダルトチルドレンの性質を持っているのではないか、ということだった。