Masaki INOMOTO

文系院卒→会社員一年目。書いていることは個人の見解です。 主に読書で思ったことを書きま…

Masaki INOMOTO

文系院卒→会社員一年目。書いていることは個人の見解です。 主に読書で思ったことを書きます。

最近の記事

幻惑する御金神社 〜もっともフェティッシュな...

黄金の鳥居  ここ数年の話である。京都は御池通の少し北、二条城のちょっとばかり東の西洞院通に位置するとある神社に、観光客が押し寄せている。その社は特別大きいわけでも、有名人になにかゆかりがあるわけでもない。だがなにより、異彩を放っている。  テレビに取り上げられたのか、はたまたSNSで火がついたのか。その神社には、数年前から観光客が増えてきた。御池通近くのマンションや個人経営の味わい深い飲食店に囲まれた区域に存在するその神社に人が押し寄せちゃったもんだから、「夜間は静かに

    • ポケモンのエチカ〜國分功一郎『中動態の世界』を読む〜

      「ポケモン」の進化論  小学生高学年ごろだったか、ポケモンにハマった。当時の最先端は、DS Liteでダイヤモンド・パールをやること。「ダイパ」は、当時の小学生のステータスであり、ポケモンバトルと交換は、高度な社交のツールだった。  少し前に、ポケモンの最新作を買った。スカーレット・バイオレットは、「ダイパ」で時が止まっていたぼくからすると、あまりにも完成度が高すぎる。なにせ街や平原、山々の立体感がすごい。縦横無尽に駆け巡ることができるし、ポケモンに跨がれば空を滑空するこ

      • 現代思想のトリックスター 〜中沢新一『構造の奥―レヴィ=ストロース論』を読む

         2005年の日本国際博覧会、通称「愛・地球博」は、「自然の叡智」をテーマとして開催された。1990年代後半、このイベントを前に、中沢新一は通産官僚からとある相談を受けたという。当時愛知県は、瀬戸市の「海の森」を切り開き、博覧会後公団住宅にする計画を進めようとしていた。そこに懸念を抱いた通産官僚は、中沢に相談を持ちかけたのだった。  中沢は、あえてパビリオンを建てないことを積極的な思想として打ち出すことを提案した。つまり、森を切り拓く計画を止めることそれ自体に、博覧会を活か

        • 桜の頃にT-BOLAN

          桜の花が街を彩り始めた。季節の変転を一気に感じさせるように、急に暖かくなってしまったのだから、桜も花を開かざるを得なかったのだろう。 大濠公園では毎年のように、「桜祭り」が催されていた。軒並み屋台がひしめき合い、レジャーシートがそこかしこに敷かれる。芝の緑に幾何学的な青色が敷き詰められ、見上げるほのかな桜色。鮮やかな色彩に彩られ、缶ビールを傾ける。うん、これこそ花見の儀礼だよね。 ぼくは公園を、イヤホンをつけながら何気なく歩いていた。誰かと花を見ているわけでもないし、宴に

        幻惑する御金神社 〜もっともフェティッシュな...

          ケインズ「孫世代の経済的可能性」を読む

          この国では、未来に希望を持つことが禁じられているかのようだ。いまや世を飛び交う言論のほとんどは、未来への希望を失ってしまった。人口減少と少子高齢化を筆頭に、沈みゆく列島のイメージが出来上がりつつある。なにせ、日本の首相が米国大統領に、この国を「不沈空母」なんて言ったのは40年も昔のことなんだから。  「この国に未来はない」。そんな決まり文句が、暗澹とぼくらを覆ってくる。 ケインズの「予言」  ところで100年近く前に偉大な経済学者が、100年後の経済を予測するなぞという短

          ケインズ「孫世代の経済的可能性」を読む

          旅路のレヴィ=ストロース 〜水曜どうでしょうの「野生の思考」

          水曜どうでしょうは、やっぱり面白い。  水曜どうでしょうを見ていると、どういうわけだかすげぇ落ち着く。ってのがここ2~3年くらいずっと感じていることで、どうやらあのリズミカルなボヤキとヒゲの高笑いには、ヒーリング効果があるらしい、なんて勝手に思っちゃってる。  そんな具合だからもう、何度も何度も見ちゃうわけ。深夜バスに敵愾心をむければむけるほど、どうも安心感を感じちゃうし、まったくもってわけわからんのだが、ふたりの男がスーパーカブでひたすら旅するのを、ただただ後ろから写し

          旅路のレヴィ=ストロース 〜水曜どうでしょうの「野生の思考」

          大海賊の「資本論」〜出光佐三『マルクスが日本に生まれていたら』を読む〜

          大海賊、大暴れ。 「海賊王に、俺はなる!」  日本にとどまらず世界に轟いたこのセリフは、なんとも冒険心をくすぐってくる。国民的、いや、世界的マンガは、ここまで子ども心をくすぐってくるもんだ。  しかし、海賊に妙なワクワク感を覚える幼な心は、一体どこからやってきたのか?海賊なんていえば、大抵は酒飲みの悪党ってなイメージを想起するし、東洋でいえば倭寇なわけ。ルフィみたいな人情味あふれる好青年が想起されることなんて、なかなかない。  ところで、こちらも「海賊」を描いた作品として、

          大海賊の「資本論」〜出光佐三『マルクスが日本に生まれていたら』を読む〜

          ものを五感であじわう〜小林秀雄「骨董」を読む〜

           小林秀雄というひとの文章は、こころを直接に刺激してくるものだ。古くさいようでいて、現代を生きるわれわれの五感を刺激するような芳醇さが、どうもそこにはある。なかでもぼくのこころを捉えたのが、「骨董」なる短文である。そこでは、なんとも言えぬ薫りを纏ったことばが織りなされる。  この文章の「あじわい」に、ハッとさせられた。率直に言って、これほどまでにことばを感覚的に味わうという経験を、これまでなし得なかったように思われたからだ。骨董という文字の「魔力」。「臭気」。どういうわけだ

          ものを五感であじわう〜小林秀雄「骨董」を読む〜