たまむし放浪記①
WoT界は古い雨が降っている。
2017年、CROWNが栄光の王冠を戴いて玉座に座っている時、私は小童の新兵であった。
小童新兵が、F-SIAの陰に座って少しずつ雛壇へと近づいた時、WoT界には様々な炎が燻っては消えていた。
F-SIAにその火の粉がかかり、焼け出されたメンバーが次々といなくなる中、私はクランが燃え尽きるまでそこに居残っていた。
炎の向こうの荒野に、たかし族長の掲げたUBの旗印が見えた時、私はその旗の元へ行って臣従を乞うたのである。
かくして新興クランたるUBは産声をあげ、たかし族長の強大なカリスマ性の元で規模を拡大したのだ。
ここまではあらすじにすぎない。
2021年末、たかし族長の公認CC退任があった。族長は以前よりもWoT界への興味を無くし、王城たるDiscordサーバーに姿を現すことすら少なくなった。
当時年功序列的に副司令官になっていた私は、族長に権限の一部を移譲するよう要求した。具体的には新兵募集とサーバーの管理権の部分的移譲であった。これは副司令官全体に許可された。
たかし族長の承認の元、私は特別執政官兼西南鎮撫大都督として権力を握った。この間2回のイベント運営、前衛戦の実施、新兵の募集などを行った。
夏になった。
CROWNが空けた玉座も朽ちて、共に朽ちた王冠をIMPCTが握った。IMPCTがアジア一位となり、ゲーム世界としては珍しく日本がTOPに立った。
この頃、野望に燃える私にとって、古いUBは軋みを上げ始めた。鈍い音と共に私のすべてが崩れて、砂塵の如く消え去った。私は職を辞して、クランを去らざるを得なかった。
クランを去った私の行く先は・・・
私にはクランを立ち上げるだけの影響力はない。その野望があっても、私はただの零細配信者である。
近しい人には「旅に出る」と告げて、WoT界の荒野へと向かった。
玉座の近郊には、新たなる進撃戦クランとして絶大な影響力を持ちつつあるLUVや、配信者を中心に構成されたIQ3などのクランが起こっていた。クランの垣根を超えて配信者100人を擁する配信者サーバーが立ち上げられ、新たな炎を起こしている。
私は配信者サーバーに拠って配信をしつつ、独りで荒野を目指した。
誰も見向きもしない荒野に、一人の男が帝国を築こうと砂礫を集めている。
その男は私より若いが、瞳には私と同じ野望が灯っていた。
その男の前で跪いて、私は言った。
「あなたの手伝いがしたい」
たまむしの放浪と野望の旅が、今 始まった。