一時、風吹くのを涼しく感じ
8月の朝はもっと暑いと思っていた。いつも通りパンを口の中に押し込み、顔と歯を洗って、出かけた。一瞬、涼しさを感じた。
秋の風だ。
気温は28度、ともかくも30度を下回っている事が嬉しい。しかしながら日差しは強く、一瞬で風は通り過ぎていつもの暑さがやってきた。
先日初秋を迎えた。夏もピークを過ぎたのだ。もっとも人が死ぬような暑さに変わりないのだが。
こうも暑いと、と言って先日は夜に散歩に出かけて河原まで行ってきた。水がゆっくりと流れて、街の明かりを反射していた。車の明かりがピカピカ光って通り過ぎていく。中洲の草むらが揺れている。
しばらくボーっと立っていた。
すると草むらの影から、闇夜に紛れて悠々と戦車が流れてくるのを見た。
「あれは」
と呟くと、戦車の砲塔がこちらを向き、砲身から火花を散らした。
私はHPが80ほど減ったように感じた。あの戦車は2秒に1回の間隔で弾を撃っている。間違いない、あれはイギリスの6ポンド砲だ。
私は呼びかけた。「お前はなんだ!」
戦車が答える。「俺はTier5軽戦車のクルセイダーだ!」」
私は言った。「バカな事を言うな、そんな昔の話だ、お前はTier6だ、Tier6軽戦車のクルセイダーだ!」
戦車はしばらく黙った。
戦車は65発きっちり撃ち切ったあと、こう言った。
「俺は一体何なんだ。Tier5軽戦車として生まれた。当時は偵察枠とそうでない戦車で分かれていた。けども味方に軽戦車がいなかったら偵察もせにゃならんかった。視界も隠蔽も低いのに『LT go」の4文字で行かにゃならんかった。それで今度は中戦車になった。中戦車になったら10㎝榴弾砲が貫通するのに戦わねばならん。私は必死で戦ったよ。」
戦車は続けた。
「でも今度はTier6で軽戦車をやれ、と言われた。冗談じゃない。Type64とどうやって戦えって言うんだ。教えてくれ。適当にバランス調整して、後はポイか。教えてくれ、俺は何なんだ。俺は何なんだ。」
私は答えてやった。
「お前は、お前はクルセイダーだ。イギリスの巡航戦車だ。」
クルセイダーは、横に砲塔を向けてウンウンと頷いていた。
その様子を見送り、河原を去った。