「ビジネスだから仕方がない」がない世界。『ティール組織』(フレデリック・ラルー)【読書メモ】_08
「なんか、その本、凶器になりそうですね」と美容師さんに言われた約600ページの大作『ティール組織——マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』 (著:フレデリック・ラルー、翻訳:鈴木立哉、解説:嘉村賢州/英治出版)、読了……!
Facebookで見かけた「ティール組織をみんなで読破しよう」と題した参加枠80人のイベントには「参加予定」が100人以上、「興味あり」が1100人以上という人気ぶり。それだけティール組織に対する注目度が高いのか、それともこの分厚い本に対して「とにかくざっくりでも読破して理解したい(全部はゆっくり読めない……!)」と思う人が多いのか。たぶん両方か。
著者のフレデリック・ラルーさん、マッキンゼーで10年以上組織変革プロジェクトに携わったのち独立。2年半にわたる「新しい組織モデル」の調査・研究をまとめたものが本書です。
人類が誕生したころから現代にいたるまでの「組織」のあり方を7つのステージに分け、もっとも進化した段階が「ティール組織」なのだといいます。世界各地で自然発生的に誕生し、しかも社員数数万人規模の組織でも実現できている、しかも圧倒的な成長をしている。調査すると面白いほどに共通項が見えてくる……、という内容。
正直、読む前&読みだしてからしばらくは、「無色、マゼンタ(神秘的)、レッド(衝動型)、アンバー(順応型)、オレンジ(達成型)と進んでいくのを“進化”と呼んでいいのか…?」という疑問がありました。ただの色の名前である「ティール」をなぜ「進化型」としたのだろうか、と。
“進化”じゃなくて、“派生”や“変容”では、と、やや懐疑的に読んでいたら、
青年は幼児に比べて「良い」人間というわけではない。それと同じように、高い発達レベルにいるほうが本質的に「良い」わけでは全くない。けれども、青年のほうが幼児よりも多くのことをできるという事実は残る。(略)問題はそのレベルが目の前の仕事に適切かどうか、ということなのだ。(ニック・ピットリー)p.64 (太字、たままい。)
という言葉が引用されていて、深く納得。
「ティール組織」についての詳しい解説は、すでにいろんな記事(一例)で、たくさん紹介されているので、細かい説明は省くとして。
本書は、ティール組織とは何たるや、だけでなく実践企業の具体的、かつ詳細な取り組み方法の紹介や、ティール組織の採用のあり方、さらにはティール学校まで丁寧に紹介されているので、とりあえず気になるページだけパラパラ読んでいても、かなり勉強になります。
・ 自分が「正しい」と信じることをやる
・ 競争はしない
・ 目標設定はしない
・ 予算は決めない
と、随所に、「え? ええ??」と思う言葉が出てくる。
・ 従業員は本来怠け者で、なるべくなら仕事をさぼりたいものだ(X理論)
・ 労働者は意欲的で、自発的で、自制心を発揮できる(Y理論)p.182
この理論はどちらも正しくて、経営者やリーダーがどちらを信じるかで、メンバーはXにもYにもなりうる、と。
仕事に行くときに「仮面」をつけなければいけないような職場では人々は、自分らしく輝いて仕事をできない、とか言われると、えっと、それ日本の90%以上の組織に当てはまってしまうんじゃないだろうか、とか。
「ベンチャーならともかく、日本の大企業に浸透していくのはすごく難しそうだな」と本書を読み終わろうとしていたら、解説を書かれた嘉村賢州さんの言葉にどきり。
(要約)
昔のソニーこそ、まさにそういう文化だった。本来、日本にはティールの世界観を体現できる土壌があるのではないか。p.567
過去20年間で影響力が大きかったベストセラー『7つの習慣』や『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』などに書いてある、これまでのリーダーが目指すべきとされてきた成功、競争優位に立つこと、トップを目指すことetc.は、あくまで従来型組織の中で良しとされてきた戦略で、ティール組織にはまったくそぐわない、とのこと。
「ビジネスだから仕方ない」という言葉はない世界。もし今後、理想的な組織のあり方が、この「ティール」に集約されていくのであれば、これまで世に出ているビジネス書の大半が、役に立たないどころかむしろ害悪になってくるのかな、というコワさ……。
とりあえず当面、本書の教えに従って「自分が正しいと思うか」の軸を大切にしていこうと思います。
(追記)
ところで、この本、2014年に自費出版されたもの。現在までに12か国語に翻訳され、発売20万部を超えるベストセラーなのだそうですが。そこまで読みづらい本ではないし、豊富な具体事例もたくさんあるのはとてもいいとは思うのですが……。
この本に書いてあることの大切を見抜いた編集者が当時いれば、きっともっと読みやすい本になったんじゃないかと思う(泣)。編集者さんの存在は、本当に偉大……。
(追追記)
著者のラルーさん、思うところあって、自費出版の道を選ばれたとのこと。うーん、お会いする機会があったら、その理由、ぜひ詳しくお伺いしてみたい。
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