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1810年ロンドン「バーナース通り事件」

バーナース通り事件(Berners Street Hoax)は、1810年11月27日にロンドンで起こった伝説的ないたずら事件です。

バーナース通り54番地にある裕福なトッテンハム婦人の自宅に、突如大量の荷物配達人が押しかけました。荷物は朝から夕方まで絶え間なく届き、荷物配達人で通りは大混雑し、警察が出動して大騒ぎに。婦人は依頼した覚えのない大量の荷物に怖れおののきました。


1. バーナース通り54番地のトッテンハム婦人

19世紀初頭は大英帝国の全盛期。世界中のありとあらゆる富が、ロンドンに流れ込んだ時代です。
バーナース通りはロンドンの中でも特に富裕な地域で、当時のロンドンのセレブたちがこぞって邸宅を構えていました。
その中でも54番地に住むトッテンハム婦人は特に富裕で知られており、彼女の家は「デカくてイカした邸宅(large and handsome house)」と言われ、今ではホテルに改装されているほど。

「バーナース通りの54番地のトッテンハム婦人のお宅」と言われると、当時のロンドンっ子は「ああ、あそこね」と分かるほどの有名な場所でありました。

2. 大量の人と荷物がトッテンハム婦人を襲う!

事件が起こったのは1810年11月27日。
朝5時にトッテンハム婦人の家のベルが鳴らされました。
家政婦が出てみると、そこには1人の掃除人が立っていました。

「おはようございます、ご依頼いただいたお家の掃除に参りました」

家政婦は困惑して答えました。

「あら、変ね。そんなものお願いした覚えはありませんよ。必要ないのでお帰りいただけるかしら」

そうしてドアを締めた次の瞬間、再びベルが鳴りました。だから必要ないのに、と思ってドアを開けると、今度は別の掃除人が立っていました。

「おはようございます、ご依頼いただいたお家の掃除に参りました

家政婦が困惑していると、その後ろから1人、また1人と掃除人が次々やってきました。その数なんと12名。

最後の掃除人を追い払うと、今度は大量の石炭を積んだ運搬車が続々と到着。その後ろからは、リネン、宝石、あらゆる種類の家具、ウェディングケーキなどを抱えた配達人が54番地のトッテンハム婦人の家を目指して押し寄せよせていました。

バーナース通りは物を運ぶ運搬人でごった返して大混雑になりました。

運搬人は昼になるにつれて増え続け、6人がかりでオルガンを運ぶ者、ピアノを運ぶ者、ガウン職人、音楽団、魚の卸人、靴屋、ワイン配達人、ウィッグを抱えた美容師、医者、弁護士…。その全てが54番地のトッテンハム婦人の家を目指していました。

そればかりでなく、ロンドンのお偉方たち、英国銀行総裁、カンタベリー大司教、果てはロンドン市長まで54番地目指してやって来た!市長はトッテンハム婦人から手紙を受け取っていました。(もちろん偽物)

以前から市長閣下にはお目にかからなければいけないところですが、体調を崩して外に出られません。もし可能でしたら11月27日にご訪問くださるかしら。

午後になり、ますます人の数は増え続けました。群衆の中に入れば少しも体を動かせないほどの混雑ぶりで、あまりの混乱ぶりにロンドン警察が出動し、バーナース通りの入り口をブロックし、これ以上人が入るのを防がねばならないほど。

午後にやってきたのは産婦人科医、歯医者、ミニアチュール作家、彫刻家、競売人、食品雑貨屋、絹物商人などなど…。

しまいには棺桶を抱えた墓掘り人が、
「ごきげんよう、ご遺体はどこですか?」
と尋ねる始末でした。

3. いたずら犯は作曲家のセオドア・ホーク

54番地にやってきた配達人が持っていた伝票は、明らかに「コピペ」であり、誰かが不特定多数の商人やサービス業者に大量に婦人の名前を使って依頼書を送りつけていました。

Mrs. Tottenham requests Mr. _____ will call upon her, at two to-morrow, as she wishes to consult him about the sale of an estate — 54, Berners Street, Monday. Mrs. Tottenham requests that a post chaise and four, may be at her house at two to-morrow to convey her to the first stage towards Bath — 54, Berners street, Monday. Mrs. Tottenham begs the hon. Mr. _____ will be good enough to give her a call at two to-morrow, as Mrs. T. is desirous of speaking to him on business of importance — 54, Berners street, Monday.

 婦人とその邸宅は富裕で有名だったため、「商売のチャンス」とばかりに目が血走ったセールスマンたちが、依頼書を疑うことなく婦人の家に押し寄せたのでした。

一連の顛末が翌朝のニュースで報じられると、ロンドン市民の大反響を巻き起こしました。

多くがそのいたずらのスケールの大きさに驚き、また金持ちに一杯食わせてやったという爽快感を味わったのでした。

1811年にはこのエピソードにインスパイアされた劇まで登場し、大好評を博した。
ユニバーサル・マガジンではこのように書かれました。

エドウィン夫人によって語られたエピローグ、これは最近起こったバーナース通りのいたずらを下敷きにしたものであったが、いやはや、あれはなんと痛快だったことか

この大騒ぎを起こした人物はしばらく不明でしたが2年後の1812年、The Satirist or Monthly Meteor11月号は容疑者の名前を突如発表した。その名前は、ロンドンの若きオペラ作曲家セオドア・ホーク。

このニュースはロンドン中で話題になりましたが、実際のところ彼がやったという決定的な証拠はあがらず、有罪になることはなく、単に作曲家としてのホークの名を上げるだけでした。

1840年に書かれたいたずら事件の始末書には、ホークと数人の友人が「この混乱を楽しむために」バーナース通りの家を借りていたこと、彼らによって1000〜4000枚の依頼書がトッテンハム婦人名義で書かれて送られていたこと、それらは数週間かけて準備されたこと、が結論として書かれています。

まとめ

経済格差が拡がるロンドンで、優雅な生活を送る金持ちに「大好きな奢侈品」を大量に送りつけてやるという、悪質ないたずらです。

依頼書を受け取っただけで確認を取らずに市長までも駆けつけるなんて、よほどのセレブリティだったのでしょう。
しかし、いまやったら大変なことになりそうですね。

参考サイト

"The Berners Street Hoax" THE MUSEUM OF HOAX

Berners Street hoax - Wikipedia, the free encyclopedia

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